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全体会A<記念講演>貧困のない世界をめざして―地球全体を幸福にする経済学―

更新日:2012年12月19日

特別ゲスト
Jeffrey Sachs(ジェフリー・サックス)
(コロンビア大学地球研究所所長・国連事務総長特別顧問)

貧困のない世界をめざして、地球全体を幸福にする経済学

ジェフリー・サックス

 第26回日本女性会議で女性の権利、女性の平等をグローバルな課題として取り上げられていることは素晴らしいことです。国際開発の偉大なリーダーの一人である緒方貞子さんから、ジェンダー平等と貧困撲滅の戦いの間には強く密接な関係があるとのお話がありましたが、私はこの関係が双方向のものであると強調したいと思います。貧困撲滅の戦いをすれば、それは女性のエンパワーメントにつながり、女性のエンパワーメントを行えば、貧困撲滅の戦いとなるということです。どちらが欠けても、他方は成り立ちません。9年前に世界の首脳が集まって国連ミレニアム開発目標(MDGs)を採択した時に男女の平等の課題をミレニアム開発目標リストの上位に置いたのもこのためです。世界最貧地域であるサハラ以南のアフリカでの私と私の妻の仕事の視点から、その理由をお話ししたいと思います。

 私はニューヨーク市の自宅で、毎朝コップ1杯の水とシリアルを電子レンジで温め、コーヒーメーカーのスイッチを入れて、1分の準備で朝食を食べます。ところが朝食の支度をすることはアフリカの村に住む貧しい女性にとっては一日がかりの仕事なのです。近くに井戸がないので、女性と幼い娘は日の出前に起き、水を入れるための水桶を持って1時間の道のりを歩き始めます。泉についたら、そこで30分以上長い列に並んで待ちます。娘はその日は学校には行けません。そして20キロの水を頭の上に乗せてまた1時間かけて家まで運びます。次に薪を集めます。電子レンジはありません、電気も通っていません。娘や息子と一緒に枝や木を集め、それを束にして、家に戻り火をおこし始めます。これにまた30分または1時間かかります。私がスイッチをいれる1分の仕事のためにすでに何時間も費やしています。食べ物が一切ない時もあります。雨が降らず、収穫のないこともあります。母親は常にその日子どもたちに1食でも食べさせるためにどうすればよいかを考え、そのために自分は食事をとらない母親もたくさんいます。貧困は人々の力を奪い去り、生活を不自由にし、幼い子どもたちの命を奪います。世帯をまとめ、コミュニティをまとめる女性のエネルギーをすべて奪ってしまいます。私たちが学んだことの一つは、私たちが当たり前だと思っている1杯のシリアルと1杯のコーヒーを用意するために、女性たちが6時間、8時間と働いているということだけでなく、女性がコミュニティの負担の多くを担っているということです。女性は男性より多くの時間働き、コミュニティを一つにまとめるために余分の肉体労働をしています。

 人々が生存だけのために多くの時間を割かなくてよいように、2000年にミレニアム開発目標が採択されました。私は2002年、当時のコフィ・アナン国連事務総長から国連、そして国連女性開発基金(UNIFEM)の仕事を手伝ってほしい、人々が貧困から脱却するミレニアム開発目標を達成するための実際的な方法を考えてほしいと依頼されました。その最も重要な方法の一つが、コミュニティの女性たちをエンパワーメントすることで、コミュニティを貧困から脱却させることです。

 事例を紹介すると、私たちが仕事をしているタンザニアのンボラにあるミレニアム・ビレッジでは農業者は全員女性です。彼女たちは水を汲み、薪を集め、子どもたちに食べさせ、そして畑に出て働いています。子どもたちが病気になると、もちろん子どもを診療所に連れていくのも母親です。先進地域では数ブロック先に診療所があり、車や地下鉄で行くこともできれば、救急車もよべます。貧しい村では、母親が子どもをおぶって6時間歩いて看護師や医師がいるか、薬があるか分からない診療所に行くのです。診療費を要求されでも、お金が全く無くて、払えないかもしれません。ミレニアム・ビレッジには、かならず診療所があり、そこでは無料で子どもの診療が行われ、必要な薬が与えられます。診療所で働いているのは女性の看護師です。アフリカでは蚊に刺されると、かゆいだけでなく、マラリアになることもあり、毎年蚊に刺されて亡くなる子どもたちが100万人近くいます。今はマラリアの予防が可能なだけにショックです。そこで、コミュニティの女性たちが自主的に時間を割いて地域の世帯に医療を提供するための訓練を受けて蚊帳の配布が彼女たちの手で行われています。これは織り込まれた殺虫剤が5年間持つよう工夫された住友化学製の蚊帳です。しかも値段が500円と安価に抑えられているので、提供者は十分な数の蚊帳を購入、配布することができます。コミュニティに十分な食べ物があり、水があり、作物が十分とれ、近くに診療所があれば、女性が家族のために働く時間が短縮され、その時間を使って女性は小規模の事業を行うことができます。ケニヤのサウリのミレニアム・ビレッジで小さな店を経営している若い女性は携帯電話を販売しています。携帯電話、インターネットの時代では最も貧しいコミュニティでも、少しの支援があれば短時間で世界経済に参画できます。コミュニティが貧困から脱出することができれば子どもたちは学校でコンピューターの訓練を受けることができます。貧しいコミュニティでは、女性の役割は極めて重要です。女性たちが生きるために費やす時間は私たちの想像を超えています。コミュニティをエンパワーメントして貧困から脱出させることで女性たちに自由な時間を与えることができ、その時間を使って女性たちはコミュニティのリーダーとなり、所得を得、経済改善に大きな貢献をし、コミュニティの医療や教育の改善に貢献することができます。貧困からの脱出と女性のエンパワーメントは車の両輪です。

 MDGsが採択された2000年9月国連サミットで、関係者がMDGsにとってジェンダ一平等がいかに重要であるかを認識していたことは幸運でした。MDGsは貧しい人たちも機会をもち、その子どもたちが成長してグローバルな社会の生産的一員となれる公平かつ公正な世界を確実なものとするために私たちが責任を果たすとみんなで決めた目標です。2015年までに達成する8つの目標を定めています。貧困と飢えの撲滅、すべての子どもたちが教育を受けること、ジェンダ一平等の推進と女性のエンパワーメント、子どもの死亡率の低減、妊産婦の死亡をなくし、性と生殖に関する女性の権利を守ることによる妊産婦の健康、AIDSやマラリアその他の致死的な疾患の撲滅そして環境の持続可能性と、グローバルパートナーシップです。8番目のパートナーシップという目標が我々の日常生活に浸透しなければ、その前の7つの目標は達成できません。

 目標を達成するために、私たちに何ができるでしょうか?私たちができることを提案したいと思います。

 まず、日本にはミレニアム・プロミス・ジャパンという、素晴らしい団体があります。ミレニアム・プロミス・ジャパンは国連やニューヨークにあるミレニアム・プロミスと協力して、アフリカの村々に安全な水を汲むための新しい井戸を作り、診療所や、学校や、全天候道路や緊急時に使える救急車を整備し、蚊帳や品種改良した種を提供するという貧しい人々のエンパワーメントを支援しています。また、ミレニアム・ビレッジでは女性たちのリーダーシップ育成にも取り組んでいます。すべてのミレニアム・ビレッジで女子教育、公衆衛生施設整備、女性への暴力撤廃にも取り組んでいます。この夏エチオピアに行ったときに、北エチオピアのこれまで少女が高校に進学することさえなかったコミュニティで初の女子学生が高校を卒業するのを見ました。これはミレニアム・ビレッジの活動そしてミレニアム・プロミス・ジャパンの支援があったからです。この活動を支援するのが一つの方法です。

 もう一つの方法は、堺市にリエゾンオフィスを開設したUNIFEMへの支援を通じて国連の活動を直接支援することです。国連人口基金(UNFPA)を支援することもできます。UNIFEMは女性のエンパワーメントのための資金的、技術的支援を行っています。UNFPAはすべての妊娠が望む妊娠であり、すべての出産が母子にとって安全なものであり、すべての若者がAIDSにかかることなく成長し、すべての女児や女性が尊厳と敬意をもって扱われるよう支援しています。皆さんも直接UNIFEMやUNFPAを支援することで、MDGsを支援することができます。目標達成までにあと6年しかありません。日本国民としてぜひ日本政府に対してMDGs達成に向けての世界のリーダーとなるよう働きかけてください。日本には緒方貞子さんという素晴らしい開発のリーダーがおられます。緒方さんにこの会議で日本の女性たちが、MDGsの達成を国の使命と考え、政府や国会に対してMDGs達成のためにアメリカや、欧米諸国と手を組み前進するよう要請していることを伝えてください。財界のリーダーたちにも訴えてください。日本にはマラリア撲滅のリーダーである住友化学のような素晴らしい企業があります。日本の財界にMDGs達成に向けてかかわりを持つよう訴えてください。日本が発明し、世界に向けて発展させていった、素晴らしい自動車やエレクトロニクスや化学製品を持ってすれば、安全な水、生産性の他、農業、すぐれた公衆衛生、エネルギーの効果的利用、太陽エネルギーの使用などのために大きな役割を果たすことができます。今から1年先の2010年9月にグローバルサミットが開かれ、MDGs達成の公約を確認するだけでなく、MDGsの成功に向けて、真の計画をたて今後の5年間の道筋を決めるために、日本の首相、アメリカの大統領やその他各国の元首や政府代表がニューヨークに集まります。

 女性がリーダーシップをとれば、必ずや成し遂げられることを私たちは知っています。そして日本の女性についてもそれが当てはまると確信しています。

<シンポジウム>ジェンダ一平等から公正で平和な星に ~私にできること~

シンポジスト
池上 清子(いけがみ きよこ)
(国連人口基金(UNFPA)東京事務所長)
Robert Campbell(ロバート・キャンベル)
(東京大学大学院総合文化研究科教授)
Amb. Gert Grobler(ガート・グロブラー)
(駐日南アフリカ共和国特命全権大使)
Jeffrey Sachs(ジェフリー・サックス)
(コロンビア大学地球研究所所長・国連事務総長特別顧問)
鈴木 りえこ(すずき りえこ)
(NPO法人ミレニアム・プロミス・ジャパン理事長)

男女共同参画社会の実現によって、わたしたちの人生や日々の暮らしが、どのように変わるのでしょうか。女性の人権が確立された上で、ジェンダー平等から公正で平和な社会を築くためには、ミレニアム開発目標や国連人口基金の活動、そして南アフリ力共和国の取り組みなど国際的な視座と同時に、日本において自分自身で何ができるのかを考え、行動を起こすことが必要です。

鈴木 りえこ

 私はちょうど10年前に『超少子化 危機に立つ日本社会』という本を出して、男女共同参画社会を築くことがほとんどすべての問題を解決する第一歩であると書きました。

 たまたまUNIFEMがニコール・キッドマン親善大使を中心にニューヨークでファンドレージングパーティを開いたときに、国連次席大使だった夫とともにご招待いただき、そこでお会いしたのが先ほど開会宣言をなさった山口さんと堺市から参加された25人のビジネスマンや女性の方たちでした。その後いろいろな経験から堺市が男女共同参画のための活動を行っている日本有数の都市であると実感しております。

南アフリ力の女性たちの動き

ガー卜・グロブラー

 今回堺市での第26回日本女性会議と昨日のUNIFEMリエゾンオフィスの開所式に参加できましたこと光栄に思っています。これはこの会場におられる多くの女性の皆さんの努力を証明するものだと思います。本日は私の故郷、私の愛する大陸アフリカについてお話いたします。

 南アフリカはアパルトへイト政策、人種差別、人種間の緊張と暴力が長年続いた後、新生南アフリカ、民主的で社会正義と平和な南アフリカを構築する上で女性たちが非常に重要な役割を果たしました。アパルトへイトの時代、南アフリカの女性たちは移民労働制度や、貧しい医療施設、子どもたちの人種による教育格差、低賃金などの差別政策にさらされていました。その女性たちは常に人種差別反対闘争の中心であり、原動力でした。1986年8月9日には2万人もの女性たちが首都ビクトリアで南アフリカ連邦政府の建物に向かって人種差別とアパルトへイトに反対するデモ行進を行いました。そのデモ行進は南アフリカ女性連盟の旗のもとに組織され、「女性の居場所は台所」という考えに疑問を投げかけ、手に持つ旗には「女性の居場所はあらゆる場所」と書かれていました。この女性たちの行進が触発となり、最終的にアパルトへイトに終止符を打つことになる国内、国際闘争が始まり、1994年に民主的な南アフリカ共和国が生まれました。この出来事は女性のエンパワーメントのプロセスにおいても極めて重要です。女性のエンパワーメントとジェンダー平等は南アフリカ与党アフリカ民族会議(ANC)の政策の一環をなしており、ジェンダー平等の主流化が優先されています。ネルソン・マンデラ前大統領はその就任演説の中で「女性があらゆる形態の抑圧から解放されない限り自由は達成できない」と述べています。南アフリカ政府が単に数の上だけでなく、意図的にジェンダーのエンパワーメントを行い、民主的平等な社会を作るため政府機関においての男女比率の向上の必要性を認めています。南アフリカは1993年1月29日に女性差別撤廃条約に署名、その1年後に批准しています。それ以外にも北京行動綱領をはじめとして数多くの条約に署名、遵守、批准しています。女性差別撤廃委員会(CEDAW)の目的と、その後の条約は南アフリカ政府の女性のエンパワーメントとジェンダー平等に関する国内政策枠組みの中に取り入れられています。同じように女性に対する暴力撤廃も特に懸念すべき問題として深く政府は注目し、資源を投入しています。まだ地方を中心に問題は残っていますが、ズマ現大統領は8月9日の南アフリカ女性の日に次のように述べています。「1994年当時に比べて、住宅、教育、医療、無料の上水道や電力など基本的サービスへのアクセスを有する女性の数は増えている。まだまだ問題は残っているが、公的機関における男女比率は格段の進歩を見ている。南アフリカには9つの州のうちの5つの州では知事は女性である」内閣の中で重要な地位に着いている女性も多く、議会における女性議員の割合は世界第3位です。そして南アフリカはグローバル・ジェンダー・ギャップ指数(GGG指数)では最近2位から6位にまで前進しています。

 次にアフリカでの女性のエンパワーメント推進に関する南アフリカの地域、大陸協力について述べます。アフリカの利益の推進は今も南アフリカの外交政策の主要な焦点です。南アフリカはこれまでも南部アフリカ開発共同体とアフリカ連合の両方で大陸における女性の解放の最前線に立ってきました。南アフリカは数多くの地域協定やグローバルな協定を結んでおり、女性の権利と尊厳の前進のためのアフリカ女性政治同盟も含まれます。このように一貫して大陸におけるジェンダー平等推進における役割を増大させてきました。南アフリカとその国際パートナーにとって極めて重要なことはアフリカの女性に対するエンパワーメントを行い、女性たちが政治的、経済的、社会的に辺縁に追いやられないようにするための協力の増大です。女性たちが主流経済の中心となってアフリカの経済成長の原動力として認められることが重要です。アフリカは近年良い統治と経済開発に向けて大きく前進していましたが、残念ながら最近の経済危機は、多くのアフリカ諸国の経済に打撃的影響を与えこの何年間に達成してきた重要な進展の一部を消し去り、アフリカの多くの国はMDGsを達成上多くの課題に直面しています。MDGsの達成を加速するためには、教授がお話になったように女性のエンパワーメントにこれまで以上に注目を向ける必要があります。社会的にも、経済的にも、政治的にも変革の担い手として女性が開発の中心に来ることが極めて重要です。最近国連アフリカ経済委員会の報告の中で、貧困撲滅、妊産婦と子どもの医療、ジェンダー平等、HIV/AIDS、マラリアの蔓延、若年層の失業の領域での進捗が遅いことへの深刻な懸念が示されていますが、MDGsを実現するためには政治的意思と思いやりが必要です。

 南アフリカは大陸全体の枠組みと現実的社会的、経済的再生を提供するアフリカ連合(AU)を強く支援し続けます。平和と安全なくして南アフリカの発展も持続可能な成長もあり得ません。この二つは両輪の輪です。南アフリカの平和維持軍では女性が15から20%を占めています。南アフリカは2004年から2007年国連の安保理事会において非常任理事国として関与し、アフリカの利益に関連した問題の推進を図り、紛争時ならびに紛争時と再建時の平和維持における女性の役割を強調してきました。武力紛争下の状況の中での性的暴力、特に女性や子どもたち、とりわけ女児に対する取り組みの遅れに関しては、南アフリカは、和平プロセスのあらゆる段階における女性の十分かつ平等かつ効果的参加の必要性を強調した2009年10月5日の国連安保理決議第1889号を強く支持、支援します。紛争の防止、解決そして平和構築における女性の重要な役割を認め、社会構造を再構築する上で女性が果たすべき重要な役割を再確認し、紛争後の戦略開発への女性の関わりが強調されています。

 最後に日本とアフリカのパートナーシップである建設的なアフリカ開発会議(TICAD)を強調しておきます。日本はTICADのプロセスを通じてますます重要な役割を果たし続け、アフリカを支援し、大陸のさまざまな議題の推進に貢献しています。大陸全体で数多くのTICADプロジェクトが実施され、アフリカの女性たちに大きな恩恵をもたらし、継続的エンパワーメントが行われています。「日本政府は、今後もアフリカとの協力に強く取り組む」とされた鳩山首相の最近のニューヨークでの発言や、駐日南アフリカ大使との会合の場での岡田外務大臣の建設的、肯定的発言を歓迎します。また南アフリカの新外務大臣は、10月16日の政策演説の中で「我々の日本との関係は今後も極めて重要であり続ける。この点において南アフリカと日本の10年協力やTICADのプロセスは重要な手段であり、各国は共通するグローバルアジェンダやよりよい世界に向けて共有する価値観に基づき協力をしていくことができる。このことは、例えば我々の国際社会のMDGsの採択や1995年北京で合意したジェンダーの平等と世界全体でのエンパワーメントに向けてのグローバルな行動綱領でも実証されている」と述べています。

 日本とアフリカの間の建設的パートナーシップや友好が今後も拡大することは私の願いでもあり、南アフリカ、そしてアフリカ大陸の願いでもあります。来年は南アフリカと日本は国交成立100周年を迎えます。今後とも日本の女性団体や日本中のパートナーの皆様との対話を続け、南アフリカとこの偉大な国の女性運動や女性の方々とのつながりと連帯を強化することを提案したいと思います。日本と南アフリカ、アジア、そして世界中の女性たちの声が大陸を超えてお互い届き、将来のジェンダーや開発の問題に対応していく上での新たなはずみとなることが必須です。状況は異なり、地理的に離れていても、女性のエンパワーメントと開発に向けての思いは同じです。我々は日本の友人の皆様に対し、アフリカの女性たちの思いを受け止め、今後とも彼女たちとの連携、支援、そして連帯を培っていただきたいと切にお願いする次第です。

鈴木 りえこ

 南アフリカには5人の女性知事がいらして、女性議員の数では世界第3位ということは、本当に感動的です。大使は女性のスキルを向上させること、女性を解放することが開発のキーであると指摘なさいました。残念ながら世界には女性の解放、女性差別撤廃や貧困の削減が可能でありながら、政治的な理由から十分に行われていません。

日本の女性の発展の歴史

ロバート・キャンベル

 今日は日本の歴史を振り返りつつ、それをプラットフォームとして現在の日本、日本の女性の状況、現況、そしてとくに世界に対する日本の女性のポテンシャルについて、日ごろ考えていることをお話しさせていただきたいと思います。

 江戸時代の日本は徹底的に男尊女卑の時代、世界であったと思います。また18世紀、19世紀の欧米文学や平安時代並びに近代と異なり、日本の文学史ではこの時代女性作者がほとんど出てきません。そうかと言って江戸時代260年間の間に日本の女性がずっと眠っていたかと言いますと、実はそうではありません。堺で生まれ育った与謝野晶子が大変鮮やかな活動ができたその素地が作られています。江戸時代から受け継がれた学問、学び、そしてその学びを自らの自己実現に役立てるという生活の実践がありました。江戸時代日本は世界有数の教育国家でした。18世紀の前半から文治主義、すなわち武力ではなくて説得力が社会を成立させるという考えが国の基礎にありました。儒学は男尊女卑のもとにもなりますが、身分、性差、年齢に応じて社会の中の持ち分があり、それを人生のステージに応じて、自己実現をするという基本的なコンセプトを伝えています。教育が国民に普及するにつれ女性の識字能力が向上しました。出版されないで筆で書かれた文学では圧倒的に女性が自分たちの世界、希望、不安、世の中のあるべき姿を描いています。

 江戸時代、女性たちは、農家の妻は畑に出、漁師の妻として当然漁場に出て町人の女性は従来店頭に立ち、実際に仕入れ、商品開発そして職人と関わっています。男性とちがう点は丁稚奉公をしない、出げいこをしないということで、遠く家や店を離れて就業をして帰ってくるということがないのが日本の女性の一つの歴史的な特徴でした。その代わりに飛脚を使って通信教育で、和歌、漢詩、和算などを女性たちが地方にいながら都市に暮らしている師匠に弟子入りをしてたくさんのことを学んでいました。もう一つは女性のサークルがいたるところで作られています。趣味の会ではなく、貯蓄をする、お互いにお金を融通しあう、そういう組織が女性によってそれぞれの地方の中で「講」という形で作り上げられていました。また日本の旅行文化、観光文化はほとんどが女性の需要、女性たちが実際街道に出て、旅行することによって整備されていったことが、最近の研究によってわかってきました。記述されていない部分で、実は日本の女性の生き生きとした、活力に満ちた活動があって、それが近代につながっています。

 私が日本に来日しましたのは1985年、男女雇用機会均等法が施行された年です。私の同世代の女性たちと自分の間に非常に共通するものを感じます。私が「江戸時代の文学、文化を研究しています」と同世代から上の世代の日本の男性に言うと、驚かれ、「意外なことですね、どうしてまたそういうことを」とか、ある種の違和感を感じる人がたくさんいました。私の世代の今管理職にいる女性たちの場合も同じで、「女性でありながらこんなことをよくやった」と言われ、やはり余分に1時間、2時間頑張ってきたというところで共通の戦線に立っているような感じがします。若い女子学生たちに私はちょっと危惧を感じます。就職をあきらめて、専業主婦を志望している学生が増えています。留学する希望は、特に女子学生の中では十数年前と打って変わって大変減っています。世界の貧困の問題、環境の問題に取り組むのは女性だと思っています。その女性たちが、大國さんの話にもありましたように、意思決定の場、エンパワーメントの働きかけをする地位に果たして到達することができるのか、グラスシーリング(ガラスの天井)を実際に破ることができるのか、今の20代の女性たちは非常に冷静に見極めようとしているのではないでしょうか。女性のエンパワーメントについては実際に見合った働きに対する地位をどう考えるかが、これからの10年、20年の社会の功罪を決める重要な岐路に立っていると思います。

鈴木 りえこ

 江戸文化の視点から日本女性の発展をわかりやすくお話いただきました。当時から女性が平等に教育を受けていたということは大変重要なご指摘だと思います。女性たちが集うというお話がありました。また、昨夜、今アフリカの女性たちも少しずつ家事時間が短縮され、女性が集まれるようになって社会を超える原動力になりつつあるという話をサックス教授夫人であるソニア医師からもお聞きしました。日本のジェンダー・エンパワーメント指数は世界第57位で、10年前の43位からだんだん落ちています。アメリカは18位です。南アフリカは27位です。この状況を変えるためには私たち一人ひとりが動いていかなければならないと思います。

国連人口基金(UNFPA)

池上 清子

 私の話は、MDGsと母親の命を守るという5番目の目標から始めたいと思います。MDGsは8目標がありますが、その中でどの目標の達成が一番危ぶまれているでしょうか。実は目標の5番目、妊産婦の健康の改善です。今でも1分間に1人、世界のどこかでお母さんが妊娠や出産が原因で亡くなっています。UNFPAは人口と開発にかかわっている国連機関ですが、MDGsに関しては、5番目の妊産婦の健康改善を担当しています。具体的には、性と生殖にかかわる健康と権利の推進とそれらを保障できる社会づくり、並びに人口と開発の視点から開発を進めるための分析支援を活動領域としています。貧困削減のための教育や保健医療サービスの提供は、人口の統計やデータがない効果的な実施を計画することすらできません。ですから開発を進める基本データと分析に関して技術協力も行っています。

 もう少し詳しくMDGsについてお話します。貧困削減に関しては、女性が開発に関わることが、まず重要になります。女性の人権が保障されない時、例えば、女性が財産権を持てないとすれば(こういう国は結構たくさんあります)、これを変えるために法律改正をしていく必要があります。先ほどマラリア予防の蚊帳の話がありましたが、これは単にマラリアの予防につながるだけではなく、一番マラリアに感染しやすい妊産婦や乳幼児を守ることで、安全な出産、ひいては安全な社会につながることを意味しています。また、サハラ砂漠以南のアフリカではHIV/AIDSがすでに女性の病気になってきました。感染者の57%は女性です。つまり、HIV/AIDSがもはや中流階級の男性の同性愛者の病気ではなく、貧困層の女性の病気になってきたことを示しています。

 妊産婦死亡の話にもどると、2005年の最新のデータではサハラ以南のアフリカや南アジアを中心に世界中では53万6千人の妊産婦が亡くなっています。原因は妊娠の合併症です。これらの死亡は医者や医療施設や機材があれば予防可能なのです。加えて、対応策としては、出産間隔を最低2年あけて母体の回復を待つことと、さらに訓練を受けた助産師さんが出産に立ち会うことです。問題は、今でも10%の妊婦さんは誰の介助もなく出産していることなのです。緊急産科ケアに関して、マラウイの村では自転車を救急車として利用して妊婦さんを医療施設まで搬送する取り組みが行われています。

 最後にアフリカに特に多い産科ろう孔について聞いてください。産科ろう孔は明治時代の初期まで日本にもあった病気です。10代前半の女の子が妊娠・出産すると、出産時に胎児の頭が大きくて、子宮の内部の組織や膣の組織を壊し、そこに孔が開く。孔の場所が尿道の隣の場合には、お小水がずっと垂れ流し状態になります。もし、反対方向であれば直腸ですから、便が垂れ流し状態になります。そうなると12歳、13歳の女の子たちはその年齢でその後の生涯ずっと、一人の人間として社会的に生存する機会をなくすことになります。その女の子は垂れ流し状態だから臭いので、家族が嫌がり、家族と一緒にご飯を食べたり話をしたりできなくなり、庭の隅の掘立小屋のような家で一生過ごすことになります。彼女は何も悪くないのに、社会との接点を全て失うことになります。医学的には350ドルあるとその孔をふさぐ外科的手術ができますが、お金がないために手術を受けられず苦しんでいる若い女性がたくさんいます。たくさんの人の寄付で建てられたエチオピアのフィスチュラ病院では無料で手術が受けられます。UNFPAも支援しています。社会復帰をめざしてたくさん女性たちが病院で手術の順番を待っています。

 最後に今私たちに何ができるかということを少し考えてみたいと思います。UNFPAでは1年間の期限限定のキャンペーンをしています。「お母さんの命を守る」キャンペーンです。これは達成不可能であるとされるMDGsの5番目に対して、せめて最後の6年間ラストスパートをかけて応援していこうというものです。インターネットのミクシィ(mixi)にも「お母さんの命を守る」というページがあります。ユーチューブ(YouTube)でも情報を提供しています。もうひとつがツイッター(Twitter)です。UNFPAは国連機関のなかでは最初に、新しいソーシャルネットワーキングということで、オバマ大統領が大統領選挙のときに使った、Twitterを始めました。なるべく多くの日本人に知っていただきたいからです。

 最後に二つだけ申しあげたいことがあります。すでに何人かの方がおっしゃいましたけれども、貧困から抜け出すためには、女性が開発に、積極的に主体的に参加することが不可欠であることです。あたり前のことですが、女性が自分や家族の健康を把握し適切な処置を知っていれば自身が健康になり、地域活動に参加しやすくなるでしょう。家族全員にとって健康の要である女性やお母さんが健康であれば、家族が健康になり、家族が健康であれば地域や企業の生産性が上がります。マクロ経済的にいえば生産性が上がると、開発を押し上げていくことになります。人口の半分は女性ですが、女性の声が、開発途上国では、まだ、政策決定の場所やプロセスに届いていません。この状況を改善し、開発を推進する上で、女性が鍵であるという視点です。第2点として、ジェンダーです。ジェンダーは一つの分野にだけ関わるのではなくて、全ての分野に関わる課題です。教育も保健医療も環境も感染症対策も重要です。これらの専門的分野を横につないでいくのがジェンダーだと思っています。女性の視点をとり入れていくことによって、包括的な見方が生まれる。それがないと開発はなかなか進みにくいと思うのです。

パネリス卜の発言を受けて

ジェフリー・サックス

 妊産婦の健康と子どもの生存、そしてUNFPAの素晴らしいお仕事について簡単に付け加えます。現在はAIDS、結核、マラリアに関する資金提供はありますが、今後は安全な出産のための資金を増やしていく必要があります。2010年9月のMDGsに関するグローバルサミットは、各国政府が安全な出産のための資金増額を公約する機会です。毎年50万人以上に上る妊産婦の死亡を減らすための科学的な手法があります。出産合併症がある場合には、救急ケアへのアクセスが必要です。日本女性会議から日本政府に対してこのメッセージを届けましょう。私もこのメッセージを自国政府に持ち帰ります。我々は妊産婦と子どもの健康、乳幼児死亡率、小児死亡率の減少のための努力を傾注しなければなりません。

 次に、南アフリカは世界に約200ある国々の中でのGGG指数第6位と素晴らしい実績を上げておられます。米国や日本は今後南アフリカに追いつくために相当の努力が必要です。アメリカは強い女性の国務大臣を持っており、日本には国際外交における日本の主導者であり、世界のリーダーである国際協力機構(JICA)の緒方理事長がおられます。私たちはリーダーシップの面でさらに追いつく必要があります。女性は機会が与えられれば、コミュニティのリーダーとなり、改善を生み出すことができます。女性がリーダーになれば、きれいな水が確保され、診療所や学校が機能するようになります。単に女性が重要な仕事につくだけのことではなく、女性たちはコミュニティの生活に大きな変化をもたらします。

 最後に教育の果たす重要な役割です。今年の夏のエチオピア訪問では、保健大臣が私たちに同行しました。大臣は小さな小屋に入って行きました。そこには父親と幼い娘がいました。大臣はその父親に12歳の娘の将来について尋ねました。父親は、「地域の多くの男性がやってきて自分の息子と結婚させたいと言い、私もそれを望んでいました。娘にどうしたいかを尋ねたら、娘は学校を続けたいと言い、私たちは、娘に学校を続けさせることに決めました」と言いました。保健大臣は小屋を出てきたときに、「エチオピアの地方でこのような会話が行われようとは信じられなかった」と言いました。MDGsのキャンペーンやナイキ財団などのNGOの働きのおかげで、そのコミュニティでは少女たちがエンパワーメントされ、父親は娘の意見を聞くようになったのです。娘たちは「私たちは自分の将来がほしい。12歳で結婚するのではなく、教育を受け、自分のことは自分で選び、自分の生活について自分で決めたい」と言っているのです。これこそが素晴らしい革命です。皆さんにはMDGsの理念を取り上げ、ミレニアム・ビレッジを支援し、UNIFEM、UNFPAを支援してください。私たちは南アフリカの素晴らしい成功は我々にとっての励みです。将来には、我々はもっと多くの成功に出会えることでしょう。

鈴木りえこ

 私がいくつかのミレニアム・ビレッジを訪問して感じたのは、女性の教育が大事だということです。ウガンダのルヒーラという村で担当者が、「男性を教育することは個人を支援することだけれども、女性を教育することは国を成長させることだ」とおっしゃいました。本当にその通りだと思います。MDGsのほとんどすべては女性の開発にかかっています。サックス教授が冒頭でご指摘されたように、貧困を削減することは女性をエンパワーメントすることであり、女性をエンパワーメントすることは貧困を削減することで、それは世界平和に結びつく。サックス教授が話されたように、日本の女性たちもこれからは意思決定の場に参画しなければならない、そしてグロブラー大使がおっしゃったように、グローバルパートナーシップを築いていかなければならないと思います。堺の日本女性会議から、MDGsや女性のエンパワーメントという国際社会の共通した目標に向かって、山を動かそうとぜひ宣言し、行動していただきたいと願っています。

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