ライフストーリー7 山里歩美さん
更新日:2023年3月17日
このストーリーは2020年に公開されたものです。
私の仕事は“染め師”。古くなったお気に入りを草木染めする「Re:染め」を通じて、心地よい暮らしを育んでいきたい。
そんなふうに思うようになったのは22歳の頃、お腹に長女を宿したことがきっかけ。
兵庫県三田。家の裏には山があって、畑がある、田舎育ちの私はやっぱり自然が好きで、幼い娘を連れ出しては、葉っぱや枝や、自然のものを拾ってきて遊ぶようになった。そしてある時、色遊びを始めた。
摘んできた花や取ってきた実を潰して何色になるかクイズをしたり、布を染めてみたり。三田に比べたら自然が少ないと思っていたけれど、五感を感じる遊びを通じて、実はここも自然が豊かだと知った。
子どもが生まれて、専業主婦だった私は不思議といろんなジャンルの本を読むようになる。科学、歴史、植物、菌類。そこにある言葉と感覚がつながっていく。これは子育てする上で素晴らしい知恵だと思った。
そんなある日、知り合いの古着店で草木染めの服に出会う。「服を染めたらこんなにかわいくなるんや」。気がついたら、その服を染めた先生に“染め”を習うことに。以来、どんどん“染め”にのめり込んでいった。
服を染め始めると「ワークショップやってくれない?」と言ってくれる人が現れる。そのイベントで、また新たに声をかけていただく。「物品は作れないの?」「糸を染めてもらえる?」、ご縁が流れるようにつながっていく。
そうして、本当にやりたいことが段々とわかってくる。そのひとつが「Re:染め」。新品の何かを染めるのではなく、古くなって色落ちしたお気に入りを染め直して、大事に長く使うための、昔の人たちがしていたこと。
我が家の子どもたちは、服が汚れると「お母さん!服汚れたから染め直して!」と言ってくる。あの子たちの中で、“染め直し”が当たり前になっている。初めて言われた時は本当にうれしかった。
もうひとつは、ものづくりをする人たちの素材を染めること。服を仕立てる友人と、絵を描くように刺繍をする友人と私。3人ができることを持ち寄って、それぞれの服を作った。とても豊かな時間だった。
そして最近、「New Village Farm」という農園をやっている友人にお願いして、種から「藍」を育ててみている。藍は他の草木と違って、藍さえあれば“藍染め”ができる、とても暮らしに取り入れやすい素材。
この「藍」を通じてこれからの衣食住を考えていきたい。泉北で出会った仲間たちと一緒に、原料から育てて、生産者と消費者が関わる機会をつくっていく。やがて藍が泉北を象徴する色になるんじゃないかと妄想している。
そして、“染め”がもっと生活の中に広がるように、“染め”をする人が増えていくように、これからもその魅力を伝えていきたい。届けたいのは、キッチンから始まる、自然と人がつながる、心地よい暮らし。