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受賞者挨拶 奨励賞 日本ネパール女性教育協会

更新日:2012年12月19日

奨励賞 NPO法人日本ネパール女性教育協会 理事長 山下泰子氏

 このたびは、「第1回自由都市・堺 平和貢献賞」奨励賞を頂戴いたしまして、NPO法人日本ネパール女性教育協会会員一同たいへん光栄に存じます。堺市民の皆様、本当にありがとうございました。また、選考委員の先生方、あたたかいお言葉をまことにありがとうございます。

 私は、尊敬する与謝野晶子の生まれた堺市から平和貢献賞をいただきますことをことのほかうれしく思っております。それで今日は、まず晶子の「君死にたまふことなかれ」からはじめさせていただきたいと思います。

ああおとうとよ、君を泣く 君死にたまふことなかれ
末に生まれし君なれば 親のなさけは まさりしも
親は刃(やいば)をにぎらせて 人を殺せと をしへ(教え)しや
人を殺して死ねよとて 二十四までを そだてしや

堺の街の あきびとの 旧家をほこる あるじにて
親の名を継ぐ君なれば 君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも ほろびずとても何事ぞ
君は知らじな、あきびとの 家のおきてに無かりけり

君死にたまふことなかれ、 すめらみこと(皇尊)は、戦ひに
おほみづからは出でまさね かたみに人の血を流し
獣の道に死ねよとは、 死ぬるを人のほまれとは、
大みこころの深ければ もとよりいかで思(おぼ)されむ。

ああおとうとよ、戦ひに 君死にたまふことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに おくれたまへる母ぎみは、
なげきの中に いたましく わが子を召され、家を守(も)り
安しときける大御代も 母のしら髪(が)は まさりぬる。

暖簾(のれん)のかげに伏して泣く あえかにわかき新妻を
君わするるや、思へるや 十月(とつき)も添はで わかれたる
少女(をとめ)ごころを思ひみよ この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき 君死にたまふことなかれ。

 とても104年も前の詩とは、思えません。「旅順の城はほろぶとも ほろびずとても何事ぞ 君は知らじな、あきびとの 家のおきてに無かりけり」のくだり、自由都市・堺の面目躍如でございます。

 私たちが支援しているネパールもここ10年くらいマオイストによる内戦が続いておりました。ようやく収まったところでございます。日本ネパール女性教育協会は、ネパールの田舎の女子(おなご)先生を養成するプロジェクトをしています。その1期生にラミラ・ブッダという名前の西のはずれのバジャーンという地方からやってきた少女がおりました。入学式の時にすばらしいスピーチをして700人の聴衆を感動させたのですが、その後、その少女は、二回倒れて人事不省に陥り、私たちをたいへん心配させました。その原因は、兄とも頼む尊敬する人がマオイストに殺されたそのトラウマだったということが判明しました。

 今年の3月、私は苦労して彼女の村に行ってみました。すると、草原に建つ飛行場の建物はがれきの山でしたし、村に通じる一本道のつり橋はマオイストに破壊されて無残に垂れ下がっていました。その橋の下を荷物を運んでいたのは、牛でも馬でもありません。山羊です。小さい山羊が振り分けに荷物を背負ってどこまでもどこまでも何十頭も隊列を組んでおりました。山羊は細い道も険しい道も大丈夫です。そんな運搬手段がその村では、使われておりました。

 彼女の出た小学校に行って女性の校長先生にお会いしました。そうしたら、ラミラは、家事を手伝わされていて10歳になるまで小学校に行かせてもらえなかったそうです。学校に行きはじめたら一生懸命勉強するものですから、小学校の間に3回も飛び級したそうです。そのラミラが今年6月から、バジャンに戻って先生になっています。

 「戦争は人の心の中に生まれるものだから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」というのは、有名なユネスコ憲章の前文です。私たちは、ネパールで壺井榮の『二十四の瞳』の大石先生をロールモデルに教育をしています。ご覧になった方も多いと思いますが、木下惠介監督、高峰秀子主演の1959年の白黒映画があります。それに英語のテロップがついているものをロンドンで見つけました。それをネパールで毎年寮生たちに見せています。大石先生のクラスには、『二十四の瞳』ですから12人の生徒がいたのですが、そのうち5人が男の子でした。この5人は5人ながら歓呼の声に送られて小豆島の岬の村を太平洋戦争に駆りだされていきました。そして、3人は、兵隊墓の白木の墓標になりました。田村高廣扮する一人は、盲目になって失意のうちに帰還しました。寮生たちは、この映画を繰り返し見ていますので、そのストーリーは学生たちの心に焼きついています。彼女たちは、平和を愛し、平和の心を村の子どもたちに教える先生になってくれるだろうと確信しております。

 ネパールではまだ義務教育になっていません。新しい政府が義務教育化を謳っているようですが、まだそれが実現するところまできていません。学校へ行ったことのない村人たちは、貧しい中で女の子を学校に行かせなくてもいいと思いがちです。国連のミレニアム開発目標でも、2015年までに世界のすべての子どもたちが初等教育を終えられるようにするという目標が掲げられています。このギャップをどう埋めたらいいでしょうか。

 私たちは、本当に小さな小さなNPO法人ですから、やれることは限られています。そこで思いついたのが、田舎の学校に女の先生がいると、女の子が学校に行けるのではないかということです。私たちは、明治以来、日本政府が行った師範学校という制度を真似て、給費制の教育課程とそれに続けて義務として村の小学校の先生になるというのがセットになったシステムをネパールでやってみることにしました。

 アンナプルナの麓の町・ポカラの女子大が早速、初等教育教員養成コースを作ってくれました。私たちは、さくら寮という名前の学生寮を作りました。そして教育から取り残されているネパールの一番西のはずれの極西部とその次の中西部の村から、少女を選抜して、2年間ポカラで学んでもらい、卒業後少なくとも3年間は自分の村で小学校の先生をしてもらうというプロジェクトをはじめました。日本の退職女性教員の方々も、さくら寮へ訪問講座に行ってくださっています。

 今年6月、初めて第1期生10人が村へ帰っていったところです。私たちは、1学年たった10人ですが、10年間で100人の大石先生を養成しようと思っております。

 今回、堺市から励ましていただきましたので、益々頑張ってやっていきたいと思います。そのさくら寮なのですが、不思議なご縁で今日もご出席の堺市民の赤尾建藏さんを代表とする竹中工務店設計部のボランティア団体・AAFが設計・管理してくださったのです。また、このプロジェクトを支えてくださっているのは、現在74人の里親の皆さんです。

 そんなわけで、私たち日本のみなさんの善意を国際貢献に向けるお手伝いができたらと思っております。今回の受賞をご縁に、堺市の皆様にも会員や里親になっていただけるとうれしいと思います。自由都市・堺の皆さんの平和への思いがつまった賞をいただいたことを胸に、日本ネパール女性教育協会は、さらに歩みを進めてまいりますことをお誓い申し上げて、私のお礼のことばとさせていただきます。

 皆様本当にありがとうございました。

このページの作成担当

市民人権局 ダイバーシティ推進部 人権推進課

電話番号:072-228-7420

ファクス:072-228-8070

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