(2022年4月1日)夜の桜の帰り道
更新日:2022年5月10日
陽気な地獄めぐり〜堺編
この2年余り、コロナ禍で夜の観劇の機会が減りました。
これまで、劇場をあとにして、言葉にならない気持ちのまますぐに帰る気持ちにならず、明かりの灯る店に入って、すこし時間を過ごすのが好きでした。
一緒に出かけた友人たちとも感想を言い合いながら、やがてそれぞれの生活や人生の話にうつっていくのも楽しい。ひとりきりの時は、何も話さないけれど、静かにご飯を食べたり、コーヒーを飲んで、それから家路につくのがよいのです。
お酒が好きな人はお酒を嗜みながら、わたしのような下戸は下戸なりに、日常のなかに彩りを添えてくれる時間でした。
今では、夜遅くまで営業している店が少なくなり、劇場を出てともかく帰路につくしかありません。
先日、フェニーチェ堺を後にして、すこしづつ寒さがゆるんできたのを感じながら夜の道を駅まで歩いていると、桜の花が満開に咲いていました。
思わず、足はそちらを向き、黒い幹の桜とそのとなりのやわらかい黄緑色のしだれ柳をみつめました。
夜の闇と同じような桜の木の幹の黒さ、花のハッとする薄桃色、桜の木は微動だにせず立っていて、風にかすかになびく柳の新芽は、季節の揺れる時間を伝えています。
見惚れていると、あちこちから足音が近づいてきて「桜!」と声がします。
さきほど観劇した「陽気な地獄めぐり〜堺編」は、令和3年度の堺市文化芸術活動応援補助金の採択事業でした。
劇団“萌”SACCAIのみなさんの芝居愛を感じる、文字通り陽気な演劇で、地獄ゆえにこれまでに死んだ堺の有名無名問わず色んな人たちが登場する群像劇です。
その中の一人は、第二次世界大戦に従軍し戦友を亡くし、堺の空襲の後に戻り、がむしゃらに働いて生きて、死んでさらに迷います。そんな彼に地獄で出会った人たちが「笑おう」と演劇をすすめ、劇中劇が展開します。
おそらく脚本を執筆されたときには、ウクライナに戦車は列をなしてはいなかったでしょう。世界の状況が変わり、観客の想いがはるか空を越えてゆくのを感じました。
世界に平和が訪れることを願い、夜に立つ桜を見上げました。
2022年4月1日
プログラム・ディレクター上田假奈代
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