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堺の大使 好きです堺  籔内佐斗司さん

更新日:2023年8月3日

豊かな歴史をもつ堺を誇りに

堺での思い出

  • 小学校から高校までを堺で過ごされたそうですね。

 私が大阪市内から堺の浜寺に転居してきたのは、小学1年生の3月でした。父と兄と3人で、春休み中の浜寺昭和小学校を見に行ったことをよく覚えています。木造の校舎で、校庭の南側が大きく開けた広くて明るい学校を、一目で好きになりました。落ち着いた浜寺の住宅街と公園の緑が美しかったことも印象的でした。転居した直後の4月には、自宅近くの通称「桜道」が見事な桜のトンネルになったことに感動しました。

  • 写真は浜寺の海岸で撮られたものですか。

 はい。私が6歳のときの写真です。この後しばらくして、埋め立て工事が本格化しました。八幡製鐵(当時)に勤めていた父が海をさして、「ここに世界一の製鉄工場ができるんや」と語っていました。浜寺が臨海工業地帯へと変貌していく過程は、子ども心にも誇らしく思う反面、残念にも思いました。今から思えば、あの頃の複雑な気持ちが文化財保護の道へと導いてくれたのかも知れません。

  • 堺の魅力をどのように感じていますか。

 東京で暮らしていると、子どもの頃の自分がいかに豊かな歴史の舞台で過ごしてきたかを実感します。中学校時代、冬になると水を抜いた近隣の池に、バケツを持って土器の破片を探しに行きました。また反正天皇陵古墳や仁徳天皇陵古墳を仰ぎ見ながら高校時代を過ごしたことは、今になってそのありがたみが分かります。堺が古代からの先進地域であり、中世から近世に自由貿易都市であった輝かしい時代があったことを誇らしく思います。

  • 今の堺に足りないものは何だとお考えですか

 第二次世界大戦によって、堺の歴史ある市街地がほとんど失われてしまったことは、残念でなりません。近代の都市計画で堺駅周辺の道路は大変広々としていますが、その大通りに面した歴史的な街並みが復興することはありませんでした。そして、高度成長時代の臨海部の埋め立てと工場地帯の造成によって、堺の歴史的景観や文化史的意義はほぼ失われてしまいました。

 日本と同様、第二次世界大戦で壊滅したドイツの都市の多くは、戦後のドイツ人の努力によって、街並みや建造物が戦後に建て直されたものであることに、観光客が気付かないほど、完璧に復元されています。

 これから堺が国内外の観光客を呼び込むことを願うのであれば、地域ごとに古代ゾーン(弥生時代の遺跡や古墳群)、中世ゾーン(自治都市、自由貿易都市)、近世ゾーン(茶道の文化)、里山ゾーンといったテーマを持って歴史的景観を再構築する努力が必要だと思います。

  • 現在、全国巡回中の「やまとぢから」が堺でも大盛況でした。

 私は「やまと」を広義に日本という意味で使っています。堺が潜在的に持っている歴史と文化の底力(やまとぢから)に堺市民が気付き、活用していくことが大切だと思います。そのことが、誇りと愛着を感じるまちづくりにつながると思います。「やまとぢから」展の共通のシンボルキャラクターとは別に、堺の展示会場では「サカイタケルくん」を制作しました。今後市政や博物館のシンボルとしてご活用いただければ嬉しく思います。

お仕事について

  • 彫刻家を志すきっかけは。

 小さな頃から絵を描いたり工作したりすることが得意で、小学校の時には、将来は物を造る人になるだろうと感じていました。当初、東京藝術大学の油絵科を受験し、2年浪人した後彫刻科に入学しましたが、それが幸いしたと言えます。彫刻家は私の天職だと思っています。彫刻を生み出すことが何十年来の日常になっているので、作品のアイデアを得るのに特別な環境も仕掛けも必要ありません。いつでもどこでも、作品の着想はやってきます。

  • 作品を造る際に大切にされていることは。

 作品をご覧になる方が、思わずほほ笑んで幸せになれる作品であることを心掛けてきました。人の苦悩や怖れを強いて表現するのは、私の役目ではありません。仏教に「和顔施(わがんせ)」という考え方があります。何の知恵も財産も力もない、生まれたばかりの赤ん坊が、ほほ笑むだけ(和顔)で周りの人を幸せにしてくれて、ほほ笑みが伝わるというものです。私の作品の根底には、常にこの「和顔の施し」が現れていてほしいと願っています。

  • 文化財保護の活動をとおして学生に伝えたいことは。

 「最近の若いやつらときたら…」という苦言は、数千年前の粘土板文書にも書かれているそうです。私も若い頃は似たようなことを言われて悔しい思いをしたこともあり、「最近の若い連中は、本当によくやりますよ」と言うようにしています。これはお世辞ではなく、彼らはただ経験が足りないだけで、私が若い時よりもはるかに優れた能力を秘めていると感じるからです。その能力を見極め伸ばしてやるのが私の仕事であり、文化財保護にもつながっていくと信じています。

堺の子どもたちへ

  • 堺の子どもたちにメッセージをお願いします。

 自分の祖父母や親兄弟にするのと同じように、自分が生まれ育った故郷(ふるさと)を愛し、その故郷を含むこの国を愛してほしい。その気持ちを持って、他の国の人や歴史、文化をも尊重し大切にできる人になってほしいと思います。

(取材 平成25年11月)

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