「成長するということ-小児期から思春期に向けて-」
更新日:2013年2月13日
自閉症スペクトラム障害(ASD)をもつお子さんでは、思春期に近づいてくると、ASD症状に変化がみられることがあります。思春期には、多くの身体的、感情的な変化が見られます。10代になると、新しい学校、新しい友人、そして親から離れて、自分の時間を自由に過ごすようになるなど、多くの社会的な変化が見られます。
例えば、新しい仕事、家庭における親子・家族関係の変化などもそうですが、これらの多くが、お子さんのより良い自立の機会にもなりうるでしょう。このようなあらゆる変化の中で、親はお子さんのASDの症状に関連した新しい問題に向き合う必要がでてくるでしょう。
思春期に起こりうる医学的な問題にはどのようなものがあるでしょうか?
思春期には、ASDに関連する医学的問題が表れたり、より悪化することがあります。お子さんが思春期を経験する時、またお子さんの過ごし方によって、ASD症状に何らかの影響が出てくることがあるかもしれません。以下には、代表的な問題が挙げられています。
痙攣(けいれん)
ASDをもつ人の場合、生涯を通じて痙攣(けいれん)が起きるとされる可能性は25%~30%であり、最もそのリスクが高まるのが就学前の早い時期と思春期に入ってからといわれています。
思春期の始まり
ASDをもつお子さんの中には、早い時期に思春期を迎える人がいます。遺伝や神経系の問題やそれらに関係する医学的問題が、思春期の始まりに影響しているのかもしれません。
成長異常
食習慣や遺伝的な要因によって成長上の問題が生じる場合があるかもしれません。
安全面について
お子さんは、思春期ならではの問題を抱えることがありますが、本来お子さんがもっている学習、社会性やコミュニケーションの難しさのために、より一層心配なことがでてくるかもしれません。お子さんの急激な成長やホルモンの変化に伴い、親は今までとは異なる問題(友達関係、性行動や避妊、行動上の問題、性的虐待や感染予防)にも取り組む必要がでてくるかもしれません。
一般的な健康
思春期には、あなたのお子さんの健康状態を評価することが難しい場合があるかもしれません。思春期には、内分泌系や胃腸の問題は良くおこります。ASDをもつ10代のお子さんの場合、より独りの時間を好んだり、コミュニケーションがとりづらくなる可能性があるため、お子さんがこのような症状を親に伝えることが難しいかもしれません。もし、お子さんが、いつもより疲れている、食欲がない、何らかの行動上の変化が見られる場合や、その他にも気がかりな症状が見られたら、思春期外来の医師に相談してみてください。
思春期に起こりうる精神的な問題にはどのようなものがあるでしょうか?
お子さんの成長にしたがって、精神的な問題やその症状がより明らかとなる場合があるでしょう。行動上の問題やメンタルヘルスの問題は幼い時とは異なった形でお子さんの健康に影響を及ぼす可能性があるかもしれません。以下のようなメンタルヘルスの問題が挙げられています。
不安
不安は、日常の習慣、社会場面(特に高機能のお子さんにおいて)や、成長に伴う心や体の変化と関連している可能性があります。不安は、よくみられる感情面の問題の
1つといわれています。
強迫性障害(OCD)
OCDは、強迫観念と強迫行為からなります。ASDをもつお子さんの場合、一般的な反復行動とOCDを見分けることが難しいかもしれません。
うつ病
ASDをもつ10代のお子さんがうつ病になった場合、思春期の多くのお子さんと同じように、睡眠の問題や感情表出の乏しさなどの症状を示すわけではありません。お子さんが会話をすることに難しさを抱えている場合には、特に「うつ病」の診断は難しいことがあるでしょう。
双極性障害
どのくらい一般的な障害なのかはまだ分かっていませんが、ASDをもつ人においても、この障害をもっている人がいることが報告されています。この障害は、思春期に発症する可能性も指摘されていますので、もし双極性障害に関する家族歴があれば、そのことを小児科医に伝えてみてください。診察の際に役立つ情報になるでしょう。
思春期に起こりうる行動上の問題にはどのようなものがあるでしょうか?
思春期のホルモンの変化に伴い、行動面の悪化が見られる可能性もあります。行動上の問題は、単独でも、またメンタルヘルスの問題の兆候として起こりえます。よく見られる行動上の問題は、以下のようなものです。
- 睡眠の問題(「睡眠の問題」のパンフレットをご覧ください)
- 儀式的または強迫行動
- 自傷
- 多動・注意持続時間の短さ、容易な転導性
- 強迫観念
- 常同行動
- 怒り、癇癪
- いらいらしやすくなる、引きこもり
思春期に向かう子どもの成長を手助けするために、どんなことができるでしょうか?
成人期への移行に向けて、早めに計画を立てましょう。
お子さんが、目的に向かって努力するのに、良い計画を立てることが役立つでしょう。かかりつけ医から大人になったときに掛かる医師へとかわる際の、計画作成にも、かかりつけ医と協力して下さい。
お子さんと話をしましょう。
お子さんに起こっている変化を説明し、これらのことが普通に起こりうることであると伝え、お子さんを安心させてあげて下さい。お子さんとお話をするときには、お子さんにあわせた学習・言語レベルで伝えるようにしてください。
また、お子さんがASDをもつ女の子の場合、婦人科治療についても気にかけておく必要があるでしょう。お子さんが会話スキルや行動上の問題を抱えている場合には、これらは難しいことかもしれませんが、大切なことでしょう。
「性」についての教育は大切です。
もし、お子さんに学習・言語発達遅滞がある場合、適切な性行動(例えば、「いいえ」をしっかり伝える)についての「規則」を徹底して伝える必要があるかもしれません。お子さんが、自分自身の身体を守ることができるように、性行動に関するルール(性教育)について話し合っておいて下さい。
医学的または行動上の問題についてかかりつけ医に相談しましょう。
医師は、問題の対処に向けて、行動面への介入を提案してくれるでしょう。注意欠陥多動性障害(AD/HD)、強迫行動のような問題の場合には、必要に応じて投薬を検討することもあるでしょう。不安については、カウンセリングを必要とするかもしれないし、場合によっては、薬物が奏功する可能性もあるでしょう。
地域からのサポートを受けましょう。
担任の先生、カウンセラー、ASDをもつ10代のお子さんのご両親の経験などを聞いてみて下さい。お子さんの成長に役立つサポートを提案してくれるでしょう。
このハンドアウトは、大阪大学子どものこころの分子統御機構研究センターが、アメリカ小児科学会の一連のハンドアウト集 “Autism: Caring for Children with Autism Spectrum Disorders” のGrowing Up: Moving From Childhood to Adolescenceのハンドアウトを、日本の実情に適した形に加筆したものです。
Resources
Schopler E, Mesibov GB. Autism in Adolescents and Adults. New York, NY: Plenum Press; 1983
Sicile-Kira C, Grandin T. Adolescents on the Autism Spectrum: A Parent’s Guide to the Cognitive, Social, Physical, and Transition Needs of Teenagers with Autism Spectrum Disorders. New York, NY: The Berkley Publishing Group; 2006
Wrobel M. Taking Care of Myself: A Hygiene, Puberty and Personal Curriculum for Young People with Autism. Arlington, TX: Future Horizons; 2003
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