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「便意」

更新日:2014年1月23日

○  阪堺電車
 
ぼさぼさの髪でチンチン電車に乗り込むサラリーマンの川谷太郎。
ふとお腹の異変を感じる川谷。
 
川谷「うんこしてねぇな…」
 
川谷は今朝寝坊してしまい、髪をセットする時間もトイレを済ます時間もなかったのだ。
 
川谷「(心の声)次の電停で降りよう」
 
便意を紛らわせようと周りを見渡す川谷。朝早くにもかかわらずイチャイチャする今風の若いカップルを見つけて少しイライラする。連動して、川谷の便意も増す。すると、カップルの男のほうが川谷に話しかけてくる。
 
カップルの男「あ、ちょっとすいませぇん、ここらへんでぇ、なんかおもしろいとこないっスかねぇ~。堺市にデートしに来たんスけどぉ、よくわかんなくてぇ~。」
 
川谷「(心の声)生れてこのかた付き合ったことがないのに、デートスポットなんか知らないよ…。そうだ、何も知らないのもデートをしたことがないと思われて恥ずかしいし、高校時代に堺学の授業で調べたことを教えよう!(男に)大仙古墳とかどうですかね?教科書にも載ってるくらい有名ですから。近くに大仙公園もありますし。あとは市役所の展望ロビーとか、千利休が生まれたまちだから、かん袋のくるみ餅とか和菓子も有名ですよ!チン電の終点にある浜寺公園もおすすめです!」
 
川谷は堺のおすすめデートスポットを熱弁した。恰好をつけたかったのだ。モテない川谷は悲しい見栄をはった。
 
カップルの男「あ、よさそうっスね、ありがと~」
 
そうこうしている間に次の電停が近づいてきた。
 
川谷「(心の声)やっとうんこができる」
 
しかし、チン電は電停に止まることなく通過した。川谷はカップル男との話に夢中で降車ボタンを押し忘れていた。愕然とする川谷。次の電停まで、川谷はお腹を押さえながら必死に我慢する。
 
川谷「(心の声)頼む!頼むからもってくれ俺の腹!」
 
脂汗をかきながらも、次の電停が近づいてきた。やっとの思いで降車しようとしたとき、奇抜な服装のオバチャン集団がギャハギャハと騒ぎながらぞろぞろとチン電に乗り込んできた。川谷も負けじとオバチャン集団を押しのけ、かき分けて降車しようとする。
 
オバチャンA「(川谷に向かって)ちょっと、あんた!どこさわってんのよ!」
 
オバチャンB「えーっ!チカン!?」
 
川谷「いやいや!違います!」
 
川谷はあわてて車内の奥の方へ下がった。その瞬間、扉が閉まり、警笛を鳴らして走り出すチン電。絶望する川谷。絶望の中、便意はさらに加速する。川谷の便意は限界に近い。
 
川谷「(心の声)くそ!なんなんだあの若いカップルとオバチャン集団は!」
 
オバチャンたちへの軽い殺意すらわく川谷。すると突然川谷の前に座っていた全身黒ずくめの四十代くらいの男性が立ち上がり、オバチャン集団をかきわけて運転席の近くへ歩いていく。
 
黒ずくめの男「この電車を爆破されたくなかったら、そのまま走り続けろー!」
 
黒ずくめの男の腹にはダイナマイトらしきものがまきつけられ、手には起爆装置らしきものを握っている。
チン電ジャックが起こったのだ。
 
オバチャン集団「キャー!」
 
しかし川谷は黒ずくめのジャック犯の前に立つ。
 
川谷「このまま走り続けるだと!?ふざけるな!」
 
いつもは軟弱でひ弱な川谷だが、今日は違った。絶大なる便意が彼を突き動かした。
 
川谷「このままじゃ手遅れになるぞ!」
 
黒ずくめの男「なんだと 爆破されたいのか!?」
 
川谷「もう爆発しそうなんだよ!」
 
その時、チン電が激しく揺れ、黒ずくめのジャック犯はよろめいた。川谷は隙をついて起爆装置を取り上げた。チン電の運転手もタイミングを合わせて黒ずくめのジャック犯を取り押さえた。
 
車内でオバチャンたちの川谷への拍手が起こる。電停に到着し、連行される黒ずくめのジャック犯。
トイレに駆け出す川谷。そこに殺到する報道陣。川谷は報道陣に取り囲まれてインタビューされる。
 
報道陣1「あなたがこの事件を解決したというのは本当ですか!?」
 
報道陣2「どうなんですか!?」
 
報道陣3「爆発を防いだヒーローですね!」
 
川谷「あっ、ああ~っっ!」
 

川谷の便意が限界に達し、ヒーロー川谷は爆発した。

(喜多陽向、春木淳也 平成25年12月14日 作)

  • 作 ドラマティック堺さがしハンターの高校生のみなさん
  • まとめ 今井雅子さん

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