ドラマ原作「鉄は熱いうちに打て」

○　走る阪堺電車・車内（夕方）
　
運転席近くに座っている耳原与四郎と三国晶子。
　
晶子「今日のデート、楽しかったなあ。与四郎、今度はどこに行く？」
　
晶子、与四郎を見つめる。
　
与四郎「う、うん。あのさ、…」
　
与四郎の右手に青い小さな箱が握られている。
　
晶子「そうそう、私のお母さんが包丁の調子悪いって言ってて、与四郎にお願いしてもいい？」
　
与四郎「ええよ。晶子、あの…。」
　
晶子「どうしたん？」
　
与四郎「いや、何でもない。」
　
晶子「そうや、今度は観覧車に乗りに行こう。」
　
与四郎「そうやな。あのさ、晶子…。」
　
運転士「花田口、花田口。」
　
阪堺電車のドアが開く。
　
晶子「じゃあ、私降りるね。ばいばい。」
　
晶子、阪堺電車から降りる。
小さくなる晶子を見つめる与四郎。
　
運転士「大小路、大小路。」
　
阪堺電車のドアが開く。
与四郎、持っていた箱を見てため息をつく。
電車内のゴミ箱にそれを捨てて足早に降りる。
　
○　走るシャトルバス・車内
　
与四郎と与四郎の向かいの席の夫婦
　
夫「早く生まれへんかなあ。」
　
妻のお腹をさする。
　
妻「ほんまやね。」

与四郎、夫婦の会話をぼんやり眺める。
夫婦が互いに顔を見合わせてほほえむ。
与四郎、晶子と本当に結婚したい気持ちに気付く。
与四郎、大小路でバスから降りる。
　
○　走る阪堺電車・車内

与四郎と運転士
与四郎、電車のゴミ箱の中をあさる。
　
与四郎「あれ、ない…。ここに入れたのに。」
　
運転士「終点浜寺駅前。浜寺駅前。」
　
探し続ける与四郎。
　
運転士「どないしたんですか。」
　
運転士、与四郎に近づく。
　
与四郎「いや、ここに捨てたもんがあって。」
　
与四郎、ゴミ箱を指す。
　
運転士「ゴミはもう捨てたがな。」
　
与四郎「そんな。」
　
運転士、運転席から何かを持ってくる。
　
運転士「これはあるけどな！」
　
小さな青い箱を与四郎に差し出す。
　
与四郎「なんで、それを？」
　
運転席の鏡を指す運転士。
　
運転士「そこの鏡から見えとったんや。」
　
インサート・運転士の回想
　
与四郎「ありがとうございます。」
　
与四郎、青い箱を受け取る。
　
運転士「お前、もしかして曽呂利さんとこで働いている包丁職人の子ちゃうんか？」
　
与四郎「はい。」
　
運転士「鉄は熱いうちに打て！包丁職人のお前やったらわかるやろ？もたもたしてたらあかんやろ。早く行け！」
　
与四郎「はっはい。」
　

与四郎、電車から急いで降りて、晶子の家へ向かう。

（幸野々花、飯野真鈴、西浦航太郎、肥下友梨恵、中谷真志、脚ノ友里 平成25年12月14日 作）