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山を動かすのは私たち ~DV社会を変えるには~

更新日:2012年12月19日

コーディネーター
川喜田 好恵(かわきた よしえ)
(ドーンセンター・カウンセラー)
パネリスト
近藤 恵子(こんどう けいこ)
(NPO法人女のスペース・おん代表理事)
長谷川 京子(はせがわ きょうこ)
(弁護士)
サバイバー

DVへのイメージとして「暴力をふるわれる方にも責任があるのでは」という思い込みがあり、被害者自身もまわりの人たちもこうした思い込みにまだまだ捕らわれている現状があります。そこで、暴力による支配とコントロールのもとで長年苦しみ、ようやく新たなスタートをきったサバイバーの方の経験を通して、DVの支配の構造を学びました。さらに、暴力を支え容認している社会に生きる自分自身の問題でもあることに気づき、次への行動につなげるきっかけとするため、被害者支援の現場からの発信を受け止め、DV社会を変えていくためにどうすればよいのか考えました。

《サバイバー体験発表》

DVからの生還

パワフルサナエ 1)

 私が自分の辛かった過去について何故多くの人の前で話そうと思ったかですが、被害者に限らず、女性がこの社会で生きていく中で疑問に感じることがありますね。私が体験したようなことは、どなたも味わうようなことではありませんが女性蔑視の日本社会で生きているという点では被害者もそうでない人も同じです。そのことに多くの女性に気づいて欲しいと願っています。また、もしDV被害に遭われている人に出会った時に自分とはかけ離れた問題ではなく、あなた自身の問題として話を聞いてあげて欲しいからです。DV被害を受けている人は日々闘い、本当に疲れています。ケースはそれぞれに異なりますが、今も被害に遭われている方々を代表して、この場をお借りして代弁させていただきます。

 私と元夫との出会いは、1981年、大阪府営単身者向け住宅に住んでいましたときにサークル活動で知り合いました。当時、私が22歳、元夫が33歳でした。知り合って3日目、2度目の食事に行った帰りにいきなりラブホテルに連れていかれました。突然のことで唖然とし、恐怖でとっさにどうすることもできず、されるがままでした。間もなく妊娠しました。彼に妊娠を告げると堕ろして欲しいの一点張りで、私にとっては不可解であり、絶望的でした。その時に解ったのが、彼が既婚者であり妻子があったということでした。既婚者でありながら単身者向け住宅に入居していたんです。私にとっては大変ショッキングな出来事でしたが、お腹の子どものためにも泣いてばかりもいられない、そんな必死の思いで彼を説得し、同居生活を始めました。後に婚姻届を出し結婚生活が始まりましたが、罪からスタートした結婚生活でした。

 24年間にはたくさんのエピソードがありますが、そのうちの幾つかをお話しします。長女が1歳11か月の時でしたが、三輪車ごと外付けの階段から落下したことがあります。そのとき、口から血を吹き出している長女を抱きかかえ病院へ連れていこうとしている私を、「子どもをめちゃくちゃにしやがって、お前のようなやつはこうしてやる」と、いきなり拳骨で殴りつけ、髪の毛を鷲づかみにして引きずり回し、その上、足で蹴られました。転落事故の後は、毎日毎日、「子どもにこんなに大怪我をさせたおまえは母親としての資格がない」とか、「お前は人間の皮をかぶった悪魔だ」とか、「おまえも子どもと同じ目に遭わせてやる、一生恨み続けてやるからな、何なら今すぐ死ね」と責め続け、恐ろしい顔で睨みつけて怒鳴り、殴ってきました。辛くて死んでしまいたいと思うこともありました。

 結婚生活がしんどいと思いながら離婚は考えないようにしていました。毎日が夫の罵声に脅かされ、命令に従う日々でした。とにかく怒らせないように夫の期待どおりにうまく物事が運べるように努力をしましたし、自営業の業務も何とかして夫に認められたいとの思いからどんどん仕事をこなしていきました。24年間の結婚生活で子どもを6人出産しましたが、子育て、仕事、家事と奮闘し、夜は夜で夫に肉体を提供し、くたくたの毎日でした。夫には肉体関係を持つ女性が常にいましたが、それでも私との関係が無くなることはなく、ほぼ毎日のように肉体を求められ、拒むとまた殴られ、髪を引っ張られ、首を絞められます。何人もの女性と性交渉をしている夫との関係は苦痛以外の何ものでもありませんでしたし、妊娠する度に「また誰の子どもを妊娠したんや!お前は犬や猫のように子どもばかり作りやがって!」と罵られていました。夫に従い続ける生活は大変重荷でした。若い頃は、夫も年をとればもっと丸くなるのではないかという微かな期待がありましたが、年を追うごとに、夫婦の一致や向き合って話をすることがいかに不可能であるかをまざまざと知っていきました。老後は一体どうなるんだろうと、とてつもなく不安でした。仕事上でも夫の指示に従いともに働いてきましたが、考え方がまるでちがい、こちらが意見を言うと、「おまえのような気の強い口の達者な女は殴って言うことを効かさなあかんて、みんなが言ってる」と全く聞こうとせず、暴力を正当化され殴られ、本当に腹立たしかったです。「お前のような女は今すぐ出て行け!」と何度も責められるので、何とか別居を始めると、今度は、手の平を返したように「これからのことを二人で話し合おう」とか、「離婚なんかしない方がいいから子どもたちのために夫婦で頑張ろう」などと言うのです。夫からそう言われると、そんなふうに夫が言ってくれているのに私が従わなかったら、自分勝手だと思ったり、経済的な不安もあり、離婚をして生活していく自信がありませんでした。夫の言葉がいつも私の脳裏にありました、「何の取り柄もない女」と。

 けれども、いよいよ私にも家を出るきっかけがめぐってきました。一昨年の1月でしたが、もう殺されるかもしれない、と思える暴力を受け、結婚生活を続けることに限界を感じ、夫との生活がとんでもなく嫌になって希望がなくなりました。それで、今回思い切って翌日に診断書を取りつけました。それまでは診断書を取るのも怖かったです。女性相談窓口で相談を受け、離婚を決意しました。離婚を決意した時には、とてつもなく大きな渦の中に巻き込まれていくようで不安でいっぱいでしたが、多くの人に助けられ、全ての事が図ったように着実に運ばれていきました。私にとってはこのタイミングが神様から用意された離婚の時期だと感じました。2回の調停で離婚が成立し、現在は同居の子どもが3人になり、経済的には大変ですが、怒鳴られることも、暴力もなく、人間らしく、また自分らしい生活が出来るようになり今は幸せです。

 私の話で元夫は極悪非道な人だと感じられたことかと思いますが、世間的には良い人だと思われていましたし、ご近所やお客様からは「腰の低い、やり手な働き者の優しいご主人で、6人も子どもをもった奥さん(私)は、幸せそのもの」というふうに見られていました。DVは、おうちの扉の向こう側の出来事でした。

1)サバイバーとして、話をするにあたり、「DV被害から生還し、元気いっぱいに活躍している」という意味で『パワフルサナエ』という名前をこの分科会では使っています。

日本の性暴力被害の実態

近藤 恵子

 ただいまのサナエさんのご報告、本当にありがとうございました。20年から30年に及ぶ闘いに心から敬意を表したいと思います。

 こういう方がお一人、お二人と声を挙げてくださって、一歩二歩と歩みをふみ出していただいたことが、日本の社会を大きく、しかしゆっくりと動かしてきたのだと実感しています。山を動かしつつあるのは、この当事者の方々だと改めて思います。

 具体的な実践課題として女性への暴力が問題になったのは、本当にこの十数年のことです。1992年に戒能民江さんたちが初めてDVの全国調査をなさって、その年を日本社会のDV元年とすると、2001年にDV防止法ができ、そこからまた10年たって、画期的なステップをふみながら新たなステージに到着していると思います。

 DV被害の実態としては、内閣府の報告によれば3人に1人が身体的・精神的・性的暴力のいずれかの被害を体験していて、これはここしばらくの全国調査では変わらない数値です。殴られるだけ、蹴られるだけではなくて、さまざまな刑事犯罪が重複的に、それも継続的に家の中で起こるという重大な犯罪です。大変な状況を生き延びておられる方々が実際に22人に1人。これは160万件の殺人未遂事件が起こったという数字です。そして、3日に1人ずつ妻が夫の手にかかって殺されています。

 2001年に法律ができてから、相談窓口が増え、たくさんの女性たちが殺される前に逃げることだけはできるようになりました。2008年には警察における相談件数は2万5,000件を超えました。一時保護件数は2007年には2,549件、保護命令の発令は2008年に3,143件になっています。しかし、潜在化する犯罪の実態に比べ、窓口や法的保護の対応があまりに遅く、少ない。DVが不処罰のままであることは、重大な事態だと社会全体が考えるべきだと思います。

 保護命令違反も続発しています。単独の保護命令違反の160件の処理をみてみると、執行猶予が54、実際に刑務所に入ったのはたった19人です。女性たちは保護命令制度を使って何とか無事に生き延びようとするわけです。しかし、それも役にたたないということであれば、当事者は命の危険に脅かされたまま、この過酷な社会の中に放り出されることになります。DV犯罪はものすごく再犯率が高い。そもそもDV法違反で再犯の男が捕まったのはすごく少なくて7件ですが、不起訴が1、懲役刑6のうち執行猶予がなんと3。どこまで甘いんだ、と私はこの数字を見るたびに怒りに震えます。

 ドメスティック・バイオレンスは、さまざまな犯罪が錯綜する深刻な犯罪ですけれども、特に性暴力犯罪は、女性の存在の核心を攻撃する犯罪ですので、特に男性と女性との不対等な力関係がある社会構造の中では不断に起こり続ける犯罪です。それがDV被害を受けた方々の中に大変多いということを、私たちは現場で実感をしています。昨年、警察白書で報告された警察の認知件数は、強姦で1,766件です。1,766人しか警察に訴えることができなかったのです。DV家庭における性暴力被害の実態については、昨年、全国女性シェルターネットが婦人保護施設の協力を得て調査しました。DV被害女性の16%以上が夫以外の誰かからかつて性暴力を受けており、53%がパートナーから性暴力・強姦されています。

 特に、子どもの性暴力被害については、私たちは大変深刻な事態に直面しました。今回の調査で性暴力被害を確認できた子どもは6%いました。一般児童の性暴力被害は2%から3%といろんな調査で言われています。DV被害のある家庭で育った子どもたちは性暴力被害に遭うリスクが倍高いということですね。

 特に恐ろしかったのは、この性暴力被害というのは低年齢で起こるということです。0歳から14歳まで中学校を卒業するまでの間にどんどん被害を受けて、その割合は72%。まだ性器が充分に発達してない幼い幼児や少女たちがすさまじい性暴力被害を受けている。加害者は実父です。血のつながった実の娘や息子にそんなことをするはずがないというのがこの社会の神話ですけれども、実は家の中こそが子どもたちにとっての地獄になっていて、実父の加害者が86%、あとおじいちゃんとか、おじとかを合わせると、96.9%の加害者が家の中の近しい男たちだということがわかりました。DV家庭では誰も性暴力をとめられない。このような暴力を受けた方々は自己尊重感がなくなります。

 こういう子どもたちがどのようにして生きていくか。これは、当事者の言葉ですけれども、「何万回も死にたいと思った、でもそれ以上に何万回も生きたいと思った、どうしたらこの苦痛が軽くなるのか毎日毎日いつも闘っている」15歳のときにこの少女は父親から強姦されて、それをきっかけに家出をしてずっと一人で生きてこられたんですけれども、やっぱり性の商品市場に身を投げ出すしか生きていくすべはなかったと言っているんですね。

 性暴力にさらされる女性や子どもたち一人ひとりが、被害からの回復支援を受けるべき独立した権利主体だと、私たちは主張しています。特に非力な子どもたちにとっては、性暴力被害に遭った子どもたちに特別の配慮をするサポートシステムがどうしても必要で、そういったシステムをつくるためにはDV防止法ではとてもやっぱりたりません。必要とされるサポートを瞬時にさまざまなネットワークを使って当事者と一緒に組み立てていくのが、民間サポートシェルターの仕事です。毎日毎日必死の努力をしていますが、そこに公的な支援がないというのが大きな問題で、今、私たちが当事者と一緒に現場で抱えている課題を克服していくためには、包括的な性暴力禁止法をつくり、処罰と再教育、そして被害者の長期にわたる自立支援を法的に位置づけることがどうしても必要だと思っています。

DV防止法の構造

長谷川 京子

 DV防止法は、ドメスティック・バイオレンスに焦点の当たった法律が必要だというところから出発したと思います。従来、法は家庭の中に入らずというルールが支配していたわけですけれども、それを初めて覆し、家庭の中にある暴力も容認しないということをうたったものです。そして、夫からの暴力も暴力であり、妻の人権侵害なんだ、妻は人権の主体であるということを確認して、被害から逃れようとする女性を守り自立を支援するというところまで来ています。

 この法律の構造というのは、DVは重大な犯罪であり、重大な人権侵害であるということを前文でうたっています。この認識そのものが非常に大事な出発点です。二つめに、DVは別れるときが一番危険なので保護命令で保護する、被害者を守るシールドをつくるということです。三つめに、避難してきた人の安全を守りながら、その生活再建までを支援するという、こういう構造になっています。

 最初のポイントですけれども、法律ができたことで一定の啓発的な効果があったと思います。平成12年にDV防止法が施行される前は、妻が死なない事件はほとんど検挙されなかった。ただ、今なお、殺人や傷害致死事件全体よりも、妻が被害者で死なない事件は検挙されない構造が続いています。

 それから、罰則付きの保護命令ですが、非常に重要だし活用されてきていると思います。しかし、やや裁判所の対応が後退してきているということを実感しています。たとえば、認定された暴力があっても、暴力をバラバラに切り離してそれぞれが危険かどうかを評価することによって、暴力に支配される被害者の被害を過小評価してしまう。あるいは加害者をもう許してあげたらどうですかと、説得されるというようなことが起こります。

 相談と自立支援ですけれども、配偶者暴力相談支援センターというのは都道府県には必ずつくられている。市町村によってもつくれることになったけれども、この取り組みは極めて消極的です。特に避難施設のあるセンターというのはありません。それから、民間団体を含めた支援ネットも、財政的な支援が極めて不十分だということがあります。

 内閣府の調査によれば、被害者の8割が子どもと同居しています。そして小さい子どもを抱えているので非正規の仕事を選ぶ、あるいはそれを犠牲にしてフルタイムの仕事につくことになります。あるいは、暴力の後遺症に悩んで仕事が思うように探せないという人たちがいらっしゃいます。その結果、暴力の次には貧困に苦しむんだ、ということを女性たちは思い知らされます。暴力を受けてもなかなか家を出られないということには、家を出たあとの貧困の恐怖、子どもをそれに巻き込んでしまうという不安が、女性たちを躊躇させる大きな要因になっていると思います。DV防止にはたくさんの課題がありますけれども、その一つは、保護して自立を支援するだけではたりないということです。現状のままだと、男女の性別役割分担に根ざす経済力格差が別居・離婚により顕在化して、避難後の生活苦が待っている構造は変わりませんから、夫の経済的扶養を受けなければ子どもとの生活を支えられない女性被害者は、暴力を受けても貧困の恐怖に動きだすことができません。逃げた後、人たるに値するちゃんとした生活が待っていると思うと、家を出る、別れるという選択肢がもっと現実的な選択肢として選択しやすくなりますね。ここは大きな問題だと思います。但し、DV防止法を超えた広範な取り組みを要する課題です。

 他の課題としては、DV防止法の規制対象としての親密な関係で起こる暴力の適用範囲を、配偶者間のそれに限定していることです。交際相手間も含めることでもっとDVというのを包括的にみんなが理解することができますし、特に最近、若い人たちの間で起こっているデートDVについて、学校などで非暴力教育をやろうという動きがありますが、それを総合的なDVの啓発としてやっていくことができる。若いときに非暴力教育をしておく、親密な関係にDVという人権侵害が起こることがあるのだ、自分の人生を守る人間関係の作り方や、自分の人生を自分で守ることをデートDVをもとにしながら考えておくと、その後の暴力から被害者が早めに自分を守ることも対処もしやすくなります。そういう意味で、この適用の人的範囲を拡大するということは非常に大事なことだと思います。

 そのほか、保護命令とストーカー行為規制法等の間でそれを整理していくということがありますし、DV犯罪が非常に限定的に理解されているものを、他人間で起これば犯罪とされている行為を、親密な相手で起こっても犯罪であるとしてDV防止法の上で明記して、対処していくということがあります。また、子どもを守っていく体制の整備は、児童虐待防止の制度を拡充しDV防止の制度と接合することを含めて、子どもの健康と発達を保障し、被害者の生活再建の負担を軽減する上で、大きな課題です。

 さらに、生活再建に関わる事業を所掌する自治体とりわけ市町村に対して、シビルミニマムを確保したうえ、地域の実情に合わせた活発な取組を展開できるような仕組みを整備していくことが必要です。

 このように課題を挙げてみると、今や、狭い意味のDV防止法だけを改正するだけではたりない段階に至っていることが分かります。つまりこれらの課題は、女性が子どもを養いながら生活していける力をもてるような社会にしていくという大きな社会構造の変革に通じています。1993年に国連で出された女性に対する暴力撤廃宣言で、DVを含めた女性への暴力は、男女間の歴史的に不平等な力の表れである、と同時に女性に男性への従属を強いる重要な社会機構であると謳われたように、根本的に暴力をなくしていくためには、社会構造を変えなければいけない。第3ステージではここに踏み出さなければならないと思います。

 離婚事件で婚姻財産の分与を検討すると、結婚生活を通じて実に多くの割合で、婚姻財産が夫名義で集積されることがわかります。しかし、夫名義だから、財産分与するまでは、妻には「他人の財産」とされ、個人情報保護法のもと、調査することにさえ法の壁があり、女性が公平に2分の1の分与を受けることは容易ではありません。また、日本の財産分与には「離婚後扶養」がなく、離婚した翌日から、前夫には前妻を扶養する責任はなくなります。しかし、結婚・出産することによって多くの女性たちは、フルタイムの仕事を失い、経済的な力を失っていて、所得を獲得する力をそがれており、離婚したからといってその稼ぐ力が急につくはずもなく、わずかに養育費をもらっても、子どもを抱えて生活していくのに必要な生活費を稼ぎ出せないことが多いのです。特に、日本のように最も守られる正規社員の賃金が年功序列制で、不安定就業を含めて、性による賃金格差が大きい国では。ですから、公平のために、たとえば離婚の効果として、数年間は妻の生活費を分担するという仕組み(離婚後扶養)があってもいいわけです。こういう制度を採用する国もあります。さらに、夫婦親子という力の格差があって密接な関係にある者の間の紛争で、公平な解決を図るためには、家庭裁判所がもっと積極的に介入し迅速・確実に解決するという関与をしなければいけません。今、たとえば婚姻財産の分担を求めても、生活費なんだからすぐもらわなきゃいけない、そういうお金でも、家庭裁判所でその費用に関する審判が出るまで、半年ないし1年ぐらいかかります。これでは、収入のあるほうが相手を“兵糧攻め”にして譲歩を強いる不公平がまかり通ってしまいます。

グループ討論における参加者の発言

参加者

 特に子どもへの教育ということで、デートDVなどに力を入れており、若い人たちはすごく感受性が強いので、本当に自分のこととしてしっかりと受けとめてくれるという発言がありました。

 私自身はDVの男性加害者に向けて、特にDV行動をやめたい男性のための電話相談、Eメール相談をしています。来年に向けてDV防止のための加害者プログラムを実施していきたいと思って、今、準備中です。

参加者

 私自身がサバイバーとして生きて、傷ついた経験があるんですけれども、その中で裁判をすることでまた回復して、今は元気で人のサポートもしていきたいと思ってフェミニストカウンセリングの勉強をして、私の周りで同じように傷ついた人の心に寄り添える存在でありたいと思っています。私自身非婚のシングルマザーで生きていて、ハローワークで非常勤として働いています。非常に悪い待遇でかつかつの生活をしているんですけれども、頑張って生きていけるように社会を変えていきたいと思っています。

参加者

 私も今の方と同様にサバイバーとして10年間ちょっと所在を隠して何とか生き延びてきた者として、ここでお話させてもらいたい。DVの実態をまだご存じない方が、他人事で終わっているようなところもあるんじゃないかと思います。昨日の全体会で山を動かすという言葉を聞いたときすごく感動して、ちょっと涙っぽくなったんですけど、やはりこれから自分がやっていく道はこれかなというのを実感しました。

パネリス卜のまとめ

パワフルサナエ

 この場に来させていただいてよかったなと思いました。それと、2人のサバイバーの方から挙手があって、力強い気持ちになりましたし、やはり私たちが行動し、恐れずにこういうことを知っていただくことも必要だと思いました。

 また、私自身は自分の目の前の状況しか考えられなかったんですけれども、あのような資料を見せていただいて、こんなに山積みのことがあるんだということを本当に感じました。だからこそ私に何ができるのかということですけれど、私たちの問題でもあるけれど、未来の子どもたちを守っていくためには、本当に制度を変えていかなければいけないと痛感しました。

政策決定の主人公は私たち

近藤 恵子

 当事者性につながれた女たちの支えあいのネットワークが、この仕事を維持・継続させてきたんだと改めて思います。女性に対する暴力を根絶するこの仕事は、この20年間ぐらい日本社会の中でもフェミニズム運動の核心に据えられることになって、確かに女たちは少しずつ山をゆるゆると動かしてきたのではないかと思います。特に、DV防止法の制定から第1次、第2次の改正については、当事者が国会に躍り込んでこの法律をつくったわけですから、当事者が声をあげることによって超党派の女性の国会議員や、お役人たちや、マスコミの女性記者たちや、ありとあらゆる女性たちが自分たちの痛みを共有することでようやくこの法律ができたと思います。制度をつくり変えていくのも、やはり現場の当事者の闘いです。

 それからもう一つ。私たちはこれからこの社会をつくっていく若い人たちを絶対に加害者にも被害者にもできないと思います。そのために、あらゆる組織団体の中で、非暴力教育、男女平等教育、人権教育を徹底して進めるような教育改革を、具体的なカリキュラムで文部科学省にもって行き、実践させるという仕事をやらなくちゃと思うんです。たとえば人権大国日本をつくれ、というふうな大きな戦略のなかに女性や子どもの人権を位置づけていって、私たちが具体的な内容で企画をつくり、提案して国を動かし、地域社会をつくっていくことを始めたいと思います。私たち一人ひとりが当事者であって、サポーターであって、政策決定の主人公なんだ、そういう確認をもって今日の会議を終わりたいと思います。

新しい仕組み作りを

長谷川 京子

 DVという問題は、特定の法律の枠におさまらない、一人の人が人生を幸せに安全に生きていく、そして子どもたちを健やかに育てていくすべての場面に関わる問題です。皆さんがそれぞれの現場で、ここは問題だと思われるところは、それぞれどの問題に取り組んでもDVの解決につながることだと思います。言い換えれば、それほどDVの問題は、この社会の男女の関係をめぐる構造(役割分担・支配関係など)に深く関わるということです。

 このような基本構造へ変革を迫ることは、新しい時代をつくるのだという意志のもとにふみ出してこそ、前進させることができます。人口の半分を占める女性たちの手足を縛ってその力を殺ぐ構造は、この十数年の、日本の社会の脱皮と活力を奪ってきた正体でもあったのだということを見据えて、その女性の力を、この国をともに支え、次の世代を育て、繁栄を手渡していくための担い手として生かしていくという方向に転換しなきゃいけないんだろうと思います。社会が男性と女性の力を合わせて成り立っていく、そして子どもを産み育てることについても、男性と女性が同じように力を配分していく。そこから生まれる個人と社会のフレキシビリティーと、それによってもたらされる持続可能性は、これからの日本をリードしていく基本的な国家戦略だと思います。

《コーディネーターまとめ》

山を動かす主体は私たち

川喜田 好恵

 ドメスティック・バイオレンス、私たちはDVと言いあらわしていますけれども、これ実は「家庭内」と言う意味のドメスティックなんですね。家庭内の女性問題に注目するという意味で、ドメスティック・バイオレンスという命名は大変大事なことでした。でも、今、第3ステージで思うのは、家庭という枠のなかにこの問題が置いておかれる聞は、まだまだ本当に女性問題の根幹に到達していないんじゃないか、日本の政治家は安心してるんじゃないかということです。「家庭という枠」を超えて、世帯単位の制度を超えて、すべての人の人権が同じように守られるために、思いをかたちにして示して政治を動かすことが、実は子どもたちの未来と私たちの未来をつくることだというのを、今日改めて感じました。この問題がきちっとしてなければ未来はないわけですよね。明日からそれぞれの場で、一歩一歩着実にゆっくりとやっていきたいと思います。これから一緒にやっていきましょう。

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