「問題行動」
更新日:2012年12月19日
どのような問題行動が起こりえますか?
自閉症スペクトラム障害をもつ子どもには、人との関わりやコミュニケーションに困難さがあります。また、多くの子どもは、感情のコントロール、また注意力の乏しさからも独特な反応を示します。このような自閉症特有の困難さは、子どもの行動上の問題として現れると言われています。
例えば、コミュニケーションを目的として言葉をうまく使えない子どもは、自分が何を求めているかを周りの人に伝えることができずに、かんしゃくを爆発させてしまうことがあります。また、表情や声の調子など社会的な手がかりを読み取ることが難しく、人と適切な関係を築けない子どもは、人の気持ちを傷つけてしまうかもれません。
このように子どもの症状や行動は、様々なので、問題行動に対しても、それぞれの子どもに応じた対応が求められます。
行動療法の原則を学習することは、お子さんの行動の意味を再確認し、望ましい行動を増やし、問題行動を減らす助けとなるでしょう。
行動療法の原則について知っておくべきこと
基礎的な行動療法の原則は、子どもの行動が習得されてきた過程を観察し確認することにあります。基本的には、行動とは、「その時々の環境において、先に起こったできごと/感情に対する人の反応」とされています。
問題行動の例としては、以下の様なものがあります。
- 注意をひくため、欲しいものをもらうため、また不快な状況から逃げ出すために、使用する(言葉など)コミュニケーションスキルを持っていない場合、かんしゃくをおこす
- 退屈した時に特定の感覚刺激を得るため、また、周りを無視するために、身体を前後にゆらす/手のひらひらさせるなどの自己刺激行動をする
医学的要因による環境への反応として、チック、多動、夜間覚醒など
問題行動の中には、はじめは、ある程度の理由により生じたものの、後に別の意味が加わったために、発展し持続するというものもあります。例えば、以前、耳痛が起こった時、拳で頭を殴ることで、耳の痛みが和らいだ子どもは、かんしゃくを起こすと、自己刺激行動として、頭を打ち付けるようになるかもしれません。
お子さんが手をひらひらさせる、自傷行為をするなど、なんらかの問題行動を持っている場合、お医者さん、スクールカウンセラー、心理士に相談してみましょう。
どのようにしたら、行動を改善させることができるのでしょうか
第一に、子どもの具体的な行動を観察し、望ましい行動には良い注目(褒める)をする一方で、望ましくない・問題行動には効果的な対処をするなど、一貫した対応をとっていくことが必要です。
1.子どもの望ましい行動をほめる
望ましい行動が起きた時に、正の強化子や賞賛/ほうびを与えることにより、子どもの望ましい行動を増やすことができます。どのような行動療法においても、子どもがポジティブな行動を示すように、一貫して望ましい行動に注目を示していくことが大事です。例えば、子どもは、単語や文章を話した時に、周りの人から褒めるなどのよい注目(報賞)を得ることで、一つ一つ言葉を学んでいくとされています。子どもの行動が変化するためには、しばらく時間がかかりますが、このように、親御さんが習慣的に一貫した対応をとり、どの行動が親御さんにとって、うれしいか/望ましいかを子どもに教えていくことが重要です。
報賞は子どもによって異なります。親御さんのほほえみやほめ言葉、好きなキャラクターのシールなど、子どもが喜ぶものが望ましいとされています。具体的な例としては、星マーク、シールとご褒美表(貼付用)を用意して、子どもが望ましい行動をした時に、ご褒美表に星マークやシールを貼付っていくというやり方があります。子どもが望ましい行動をして、十分な星マーク/シールをためた時には、今度は、更なる報酬と交換するというのもいいかもしれません。例えば、1週間で7枚のシールがたまると、週末に家族でドライブをするなど。
2.子どもが望ましい行動に対して特典がもらえる一方で、望ましくない行動をした時には、制限が設けられていますか?
一方で、子どもに望ましくない行動を減少させる方法としては、タイムアウトという対応が有効とされています。
タイムアウトとは、子どもから遊び(ゲームの時間)など、子どもが取られたくないものを取り上げるというやり方です。(注意;これは、子どもがいつでも取り戻すことが可能なものとします)
また、このタイムアウトは、問題行動が起きた後、できるだけ早くに行う必要があり、時間は子どもの理解によりますが、適応は3から12歳とされています。基本的には、問題行動の中でも、どうしてもしてはいけない行動があったときに用いますが、タイムアウトを選択するまでにできることとして、問題行動が起こる少し前から親御さんが、予告や指示、警告をして、子どもが自分から行動を変えていける機会を与えておくことも必要でしょう。
タイムアウトする場合には、なぜそうするのかを子どもに教え、タイムアウトが終了した後には、くどくど言わないことが望ましいとされています。タイムアウトを使った後には、子どもが名誉挽回できる機会を持てるように、お手伝いなど望ましい行動を導き、子どもを褒めてあげるのもいいかもしれません。
このような厳しい対応の前には、褒める/褒められるという良い関係がつくられていることが前提とされていることは重要です。また、日ごろから、子どもに望ましくない行動を教えるときには、同時に、代わりに取るべき望ましい行動を具体的に教えていくことが必要でしょう。
タイムアウトは子どもが取られたくないものを取り上げることです。子どもが教室で授業を受けているとき、また大人からの指示が子どものストレスになったときに、その場から逃げようと望ましくない、身勝手な行動をすることがありますが、こういった場合には、タイムアウトを選択するのは正しくはありません。
このように、一貫した対応によって、子どもは、どのような行動が望ましいかを学習していくことができると言われています。
3. 問題行動の結果を把握する
最後に、問題行動へのアプローチとして、子どもに問題行動の結果を把握させるために、罰を与えることは良くありません。子どもに、平手打ちなどの体罰を加えることは、子どもに怒った時に暴力を使ってもいいのだと教えることになります。罰と見なされるものは、子どもによって異なります。
たいていの子どもの行動は、新しい望ましい行動が現れたときに、そのつど注目(認める)の機会を与えられること、望ましくない行動には、一貫した対応を重ねることで、罰を使わずとも、望ましい行動が増え、問題行動に対しても、改善がみられてくると言われています。
どのようによりよく問題行動を理解するか?
子どもの行動をABC法によって考えましょう。
A = Antecedent:先行条件(行動前の状況)
子どもの行動の前に先行したこと/起こったこと
B = Behavior:行動
ふるまい、子どもが何をしたか
C = Consequence:後続条件(その後の状況)
子どもの行動の後で何が起こったか
この方法では、子どもの行動を一つ選び出し、その行動を具体的かつ明確に定義し、その行動と行動の前後の状況を分析していきます。これにより、子どもがなぜそのような行動をとったのかを考えることができるようになり、問題行動に対して、効果的に対処できるようになります。ゴールは、問題行動につながるような状況を避け、問題行動を防ぐ。一方で、望ましい行動が持続するように強化することです。
次のような簡単な表をつけると、子どもの行動を観察し、その行動、また行動に関する具体的な状況などを明確に確認できるでしょう。
例
行動が起こった日時 | 行動前の状況 | 行動 | その後の状況 |
---|---|---|---|
日曜日 午後3時から3時30分 |
お母さんの用事で、いつものおやつを待たなければならなくなった。 | 「お菓子ほしい!」と泣き叫ぶ | 母親が大声で叱りつける。 |
幼稚園や学校の先生に、このような行動の分析をお願いして、問題行動を起こした時にどうするか、一緒に計画を立ててみるのもいいかもしれません。この分析は、お子さんの一つ一つの具体的な行動に注目して、それがいつ起こるのか観察するものです。この分析により、何が問題行動に影響を与えるのかを見つけ出し、どのような関わりをすべきかを確認することができるでしょう。これまで多くの家族が、行動療法の専門家からの情報をもとに、お子さんの行動についてより良く理解し、支援のためのプランを立てるために役立てています。
このハンドアウトは、大阪大学子どものこころの分子統御機構研究センターが、アメリカ小児科学会の一連のハンドアウト集“Autism: Caring for Children with Autism SpectrumDisorders”のBehavioral Challengesのハンドアウトを、日本の実情に適した形に加筆したものです。
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