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平成17年7月12日 堺市監査委員公表 第32号

更新日:2012年12月19日

堺市監査委員公表第32号

 地方自治法第242条第1項の規定に基づき平成17年5月13日に監査委員に提出された住民監査請求について、同法同条第4項の規定に基づきその結果を次のとおり公表する。

 平成17年7月12日

堺市監査委員 西 惠司
堺市監査委員 星原 卓次
堺市監査委員 曽我部 篤爾
堺市監査委員 西林 里子

住民監査請求に係る監査結果

 平成17年5月13日請求

<国民健康保険料の不納欠損処理に係る請求>

目次

堺市監査委員公表第32号

第1 監査の請求

1 請求人

 52人(省略)

2 監査請求書の提出

 平成17年5月13日

3 請求の要旨

 2005年4月8日、堺市監査委員は、堺市長に、「還付加算金は不当 前町長、56万円支払え」という内容の監査結果通知を、市民団体「ネットワーク・みはら」のメンバーが提起した監査請求に対して行った。
 その翌日、当該監査請求結果を報じる新聞記事において、「この問題に関連し市美原支所は同日、旧町の国保特別会計に計上していた未納金に最長25年前など徴収が不可能な約7,000万円が含まれていたとして、昨年度決算で欠損することを明らかにした。」と報道している。
 2004年9月、旧美原町長高岡寛は、国民健康保険料、固定資産税、都市計画税など1億8千万円もの不納欠損を行ったもので、これに続き、国保料については、1千8百万円もの時効後違法徴収を続けるなど、これらの失態、高岡寛の失政からみると本件7,000万円の国保料不納欠損処分(予定)も、同様に、時効管理が全くと言っていいほど、行われていなかったことが明らかである。
 われわれは、今回、報道があった不納欠損処分が予定されているこの7000万円について、適切な時効管理、すなわち、時効中断の措置、滞納処分、あるいは、分納誓約をなす事を怠った蓋然性がきわめて高いと考えるものである。
 したがって、不適正な時効管理の結果、保険料債権の性質を失わせる結果、損害を招来させた旧美原町長高岡寛、当時の保健福祉部長、保険課長、保険課収納室長らの責任を問うため、本件監査請求を行う。
 請求人は、堺市監査委員に対し、下記の内容の勧告を関係者らに行うことを求める。

  1. 堺市長は、旧美原町長高岡寛、当時の保健福祉部長、保険課長、保険課収納室長らに対し、旧美原町(堺市)が被った損害額7,000万円を連帯して賠償することを求めよ。
  2. 堺市長は、上記損害額につき、民法所定の年5分の遅延損害金を2005年5月13日から完済にいたるまで連帯して賠償するよう求めよ。

(原文のとおり)

事実証明書
1 新聞記事(掲載を省略)

第2 監査の実施

1 要件審査及び請求の受理

 本件の請求は、平成16年度の堺市決算において不納欠損処理が予定されている国民健康保険料(以下「保険料」という。)の滞納債権のうち旧美原町決算に該当する部分(総額約7,000万円)を対象として、旧美原町長、同町保健福祉部長、同保険課長、同保険課収納室長について適正な時効管理を「怠る事実」があったと主張し、このような「怠る事実」によって滞納債権の額面相当額の損害が堺市に生じたから、この損害の補填を怠る事実を行った者に勧告するべきと主張するものと解される。
 よって、本件請求の対象となる財務会計行為は、上記の範囲における個々の保険料の滞納債権を対象とした「怠る事実」であるから、本来は請求人が滞納債権の発生日、金額、時効消滅の日等に関する資料を提出する等して請求の内容を特定することが望ましい。
 しかし、怠る事実を構成する滞納債権は、平成16年度に不納欠損処理が行われる債権というものでその範囲は明確であるから、監査委員において請求の特定に係る書類を監査対象部局から提出させて内容を調査し、住民監査請求の要件を具備しているものと認めて、平成17年5月30日にこれを受理した。

2 監査を行った監査委員

 平成17年5月30日は吉川敏文、辻宏雄、曽我部篤爾、西林里子が監査を行った。平成17年5月31日から同年7月12日までは西惠司、星原卓次、曽我部篤爾、西林里子が監査を行い、合議により監査の結果を決定した。

3 監査対象事項

 住民監査請求書に記載されている事項及び事実証明書を勘案し、監査対象事項を次のとおりとした。
(1) 本件の請求に地方自治法第242条第2項(期間徒過規定)は適用されるか。
(2) 適正な時効管理を「怠る事実」はあるか。

4 請求人の証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第6項の規定に基づき、請求人に対して次のとおり証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
 日時 平成17年6月27日 午前10時から11時
 場所 堺市役所高層館8階 監査室
新たな証拠として新聞記事の写し4点が次のとおり提出された。
 平成17年2月2日付讀賣新聞・平成17年5月7日付朝日新聞
 平成17年5月7日付讀賣新聞・平成17年5月7日付毎日新聞
陳述の要旨は以下のとおり。
(1) 旧美原町保険課における滞納債権について、時効管理の実態を情報公開請求などの手段を使う等して調査してきた。その結果、同課では時効制度に関する基礎的な理解を欠いたまま不適正な時効管理が行われてきたと言わざるを得ない。
 時効管理を適正に行うには、滞納債権の消滅時効について理解し、その理解に基づいて債権の発生日、消滅時効の完成日、時効の中断事由が生じた場合にはその理由等を正確に記録する必要がある。また、臨戸訪問等、具体的な取り組みを行った場合にはその状況を記載しておかねばならないが、このような記載は全くない。行方不明者の調査も滞納者の財産調査も行わないまま消滅時効を迎えさせている。
 住民は情報公開請求を通じてしか行政の行動を知り得ない。監査委員においてはこの点を充分に踏まえ、事情の聴取と資料の要求を徹底して監査を実施するよう強く要望する。
 なお、保険料の滞納処分の執行は任意であるとの考えがあるようだが、最高裁は国民健康保険料の性質は税に近いものだと言っている。まったくの任意だという考えはおかしいのではないか。
(2) 本件の請求には経緯がある。今回は約7,000万円の保険料に関する不納欠損であるが、平成16年9月においても保険料だけで約7,000万円の不納欠損を出している。1年たたないうちに保険料だけで立て続けに7,000万円の不納欠損が出るのはどういうわけか。
 監査委員は徹底的に監査して原因を明らかにしてほしい。
(3) 本件の請求にかかる不納欠損処理(予定)について、実際に事務にあたっていた職員や当時の美原町長、堺市長はどう考えているのか。謝らなくてもいいことだと考えているのか、考えを聞きたい。
(4) 保険料を払う能力がある人に対して、手続きも取らないで時効を迎えさせて保険料の納付を免れさせている事実は住民感情として許せない。「正直者が馬鹿を見る」というのが実感だ。今後このようなことがないようきっちりと監査してほしい。
(5) 不納欠損処理をするべき債権はこれですべて整理しきれたのか、この点を含めて監査してほしい。何度も監査請求や住民訴訟をするわけにもいかない。

5 監査対象部局

 健康福祉局 美原支所

第3 監査対象部局の説明

 本件について、市長に対して請求に係る意見書(以下「意見書」という。)の提出を求めるとともに、平成17年6月27日、監査対象部局等の職員(以下「関係局職員」という。)から事情を聴取した。その概要は以下のとおりである。

1 事情を聴取した者

健康福祉局 保険年金担当部長、副理事(保険年金担当)、保険年金管理課長、保険年金管理課主査
美原支所 支所長、支所次長、総務部長、保険年金課長、保険年金課長代理
総務局 総務部次長、行政課長
 なお、この事情の聴取に際して52名中4人の請求人が立ち会いをした。

2 説明の概要について

(1) 制度等の説明

ア 国民健康保険に関する事務の概要説明
イ 保険料を徴収する法的根拠
ウ 保険料の額の決定及び賦課、徴収の時期や納期の説明
エ 保険料の徴収の告知及び督促
オ 保険料の滞納整理事務
カ 不納欠損処分の意義及び手続
キ 平成16年度不納欠損処分の状況
ク 保険料の消滅時効
ケ 滞納整理台帳の記載内容

(2) 請求人の主張に対する意見

 請求人は、旧美原町の保険課においては、適正な時効管理を怠っていたために保険料の滞納債権を時効消滅させることになり、この「怠る事実」により堺市に損害を与えた旨を主張するものと思われる。
 この点、法的な効力を失った債権を徴収したこと等、適正な時効管理ができていない部分はあったが、滞納整理事務に可能な限り努めており、一定の徴収結果をあげてきたことも事実である。
 滞納整理事務の内容としては、滞納者には保険証を郵送せず窓口において交付することとして納付交渉の機会を確保し、滞納者と分納誓約を交わして時効中断措置を講ずることを基本とし、補充的に滞納処分を執行していた。このような事務処理の方針は、限られた人員のなかで合理的に滞納債権を確保しつつ制度の周知等を通じて健康保険の利用促進を図り得るもので、制度に適合した妥当なものであると考える。
 このような滞納整理事務を行っている以上、滞納債権の時効消滅について適正な時効管理を「怠る事実」があるとは考えられない。
 また、本件において滞納債権が時効消滅した原因は、このような事務処理のもとで、[1]滞納者が窓口での納付交渉に応じない場合、[2]分納誓約が履行途中で不履行となっている間に消滅時効が完成する場合に分類され、いずれも消滅時効の完成について相当な理由があるから、旧美原町に対して「怠る事実」によって損害を生じさせたものともいえない。

第4 監査の結果

1 本件に係る事実

 本件請求の監査対象事項は、地方自治法第242条第2項の適用の有無及び適正な時効管理を怠る事実の判断である。
 これらの事項について、監査対象部局の陳述を聴取し各種の資料を検討した結果、本件に係る事実を以下のとおりとした。
 なお、具体的な事務の内容は、監査の対象から考えて旧美原町保険課に関するものとした。

(1) 制度について

ア 国民健康保険に関する事務の概要 国民健康保険は、国民すべてが医療保障を受けることができる皆保険制度であり、加入者は、事業所等の健康保険の対象者以外のすべての人であり、無職の人や年金生活者を含み自営業者や農林漁業や小規模事業所の従事者が加入する地域保険として市町村が運営するものである。
 主な事務は、医療給付を保障する国民健康保険被保険者証の交付、国保資格の取得喪失などの届出受付、保険料の賦課及び徴収であり、この他人間ドック等の保健事業を実施する。
イ 保険料を徴収する法的根拠
 国民健康保険法第76条は「保険者(市町村)は、国民健康保険事業に要する費用に充てるため、世帯主から保険料を徴収しなければならない。」と規定する。
ウ 保険料の徴収の告知及び督促
 (ア) 普通地方公共団体の歳入を収入するときは政令の定めるところによりこれを調定し、納入義務者に対して納入の通知をしなければならない。(地方自治法第231条及び地方自治法施行令第154条)。この規定を受けて各年度の4月と7月に、所属年度、歳入科目、納入金額、納期限などを記載した保険料の納額通知書及び納付書を送付していた。
 (イ) 地方自治法第231条の3第1項は、分担金、使用料等の普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、期限を指定して督促しなければならないと規定する。この規定に基づいて納付月の翌月の20日頃に該当者あてに督促状を送付していた。
 徴収の告知又は督促は、国民健康保険法第110条第2項により時効中断の効力を生ずる。指定した期限までに納付すべき金額を納付しないときは当該歳入に係る債権は滞納債権となり、この時から消滅時効が進行する。
 (ウ) 滞納債権については、地方税の滞納処分の例により処分することができる(地方自治法第231条の3第3項)。滞納処分とは債務者の財産を差し押さえてこれを換価し、換価代金を公法上の収入に充当する一連の強制徴収の手続をいう。
エ 保険料の消滅時効
 (ア) 保険料を徴収する権利は2年を経過したときは時効によって消滅する(国民健康保険法第110条第1項)。この消滅時効の起算日は督促において指定された期日の翌日であり、この日から消滅時効が進行する。
 (イ) 保険料債権は金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利といえるから、時効の援用を要せずその利益を放棄することができない。(地方自治法第236条第2項)したがって、2年の消滅時効期間が経過すれば消滅時効が完成し、債権は確定的に消滅する。

(2)  事務内容について

ア 保険料の滞納整理事務
 (ア) 滞納整理事務の中心的な手段は分納誓約交渉であった。これは短期保険証の窓口交付により滞納者との納付交渉の機会を確保し滞納者の分納誓約により時効の中断を図って滞納債権を引き続き保持しようとするものである。債務者が分納誓約に応じることは自らの債務を認めることを意味するから「債務の承認」に該当し、消滅時効の進行が中断する(民法第147条第3号)。
 (イ) 短期保険証とは、市町村が期日を定めて被保険者証の検認又は更新を行う場合に通例定める期日より前の期日を定める場合の被保険者証の通称であり、滞納者に対してのみ取り得る措置である。(国民健康保険法施行規則第7条の2第2項)。この措置により滞納者への納付指導の機会を増やすことができる。
 (ウ) 分納誓約が不履行になったときは分納誓約不履行通知を送付し、併せて自宅訪問や電話等での催告を行って履行を促していた。
 (エ) なお滞納整理ができない場合には、資格証明書を送付して短期保険証の返還を求めていた。
 (オ) 資格証明書は、滞納者に被保険者証の返還を求める際に被保険者の資格を有する旨を証明するために発行され、滞納者に送付される。
 被保険者証の返還は、滞納者が政令で定める特別の事情なく厚生労働省令で定める期間が経過するまでに当該保険料を納付しない場合は必ず行わねばならないが、この期間が経過しない場合でも市町村の判断で行うことができる(国民健康保険法第9条第3項・第4項)。資格証明書は被保険者の資格を証明する書面にすぎず被保険者証ではないため、この書面を用いても通常の保険給付を受けることはできない。例えば、医療機関にて診療を受けた場合は、治療費の全額をいったん負担し、後に市町村に本来の負担額との差額の返還を求めることとなる。このような意味で本来の給付を与えない資格証明書を滞納者に送付することは不利益を課して債権の履行を促すという意味で滞納整理事務の一環といえる。
 (カ) 短期保険証や資格証明書の利用と並行して滞納処分の執行を検討することとしていた。
 a 滞納者の住民基本台帳や税務課が管理する財産情報を調査して滞納処分の有効性を検討し、有効と判断できれば滞納処分を実施する。
 b 滞納処分には先行の手続を利用して債権を回収する交付要求、参加差押と、自ら差押を行う場合がある。滞納整理事務の費用対効果を考慮すれば、交付要求や参加差押を利用できる場合にはこれらの手続によるのが有利である。
 c これらの過程で住民票の職権消除等により滞納者の居所不明が明らかになったり、滞納者の破産等により差押財産がないことが判明すれば、その段階で滞納処分を停止することになる。
 なお、平成16年度(平成17年1月まで)の滞納処分の執行状況は次の表のとおり。

執行内容 件数 債権回収額(円)
交付要求 15 5,085,090
参加差押 7 4,094,830
差押 4 3,104,090

イ 不納欠損処分の意義及び手続
 (ア) 一会計年度の歳入歳出予算の執行の実績について作成される確定的な計数表を決算という。収入役は毎会計年度政令の定めるところにより、決算を調製し、出納の閉鎖後三箇月以内に、証書類その他政令で定める書類とあわせて、普通地方公共団体の長に提出しなければならない。長は決算及び関係書類を監査委員の審査に付し、監査委員の意見を付けて次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付さなければならない。(地方自治法第233条第1項から第3項)。
 不納欠損処分とは、既に調定した債権が法令の規定によって徴収し得なくなった場合、その債権額を表示することをいう。したがって、債権について消滅時効が完成した場合は、不納欠損として処理されるべきものである。
 (イ) 本件の場合についていえば、堺市財務会計規則第34条の2に基づき、平成17年3月31日の時点で消滅時効が完成した保険料(旧美原町の保険料に限る。)総額72,762,537円についてその額を決算に表示することをいう。
ウ 平成16年度不納欠損処分(予定)の状況
 (ア) 平成16年度の不納欠損処理については当該年度に時効消滅した債権が表示されておらず、複数年度に時効消滅した債権について一括して処理がなされているという特徴がある。
 その状況を滞納債権の発生年度別にみると、昭和55年度から平成13年度までにわたる。具体的には次の表のとおりである。

発生年度 債権額(円) 発生年度 債権額(円) 発生年度 債権額(円)
昭和55年度 46,100 昭和56年度 51,660 昭和57年度 53,860
昭和58年度 159,980 昭和59年度 198,480 昭和60年度 228,356
昭和61年度 469,770 昭和62年度 1,137,540 昭和63年度 1,324,540
平成元年度 2,892,792 平成2年度 4,320,559 平成3年度 4,362,911
平成4年度 5,834,250 平成5年度 5,970,528 平成6年度 4,845,148
平成7年度 7,067,060 平成8年度 7,356,489 平成9年度 5,946,270
平成10年度 6,475,804 平成11年度 7,414,220 平成12年度 3,858,080
平成13年度 2,748,140 計 72,762,537円

 (イ) このような複数年度にわたる保険料に関する不納欠損の一括処理は、平成16年9月3日、平成15年度美原町決算においても行われた。その際は債権の発生が昭和58年度から平成15年度、処理の総額は70,010,654円という状況であった。
 (ウ) 以上のように引き続いて保険料の不納欠損処理が複数年度にわたり一括して行われた原因は、監査対象部局の説明によれば、事務を行った経緯が両年度で異なるためであった。
 すなわち、平成16年9月3日に実施された平成15年度決算においては、平成15年8月18日の「町税等の滞納に係る特別監査」の結果を受けて平成15年度末までの債権を対象に事務を処理するため早急な調査が必要であると考え、滞納者の居所不明や死亡等の理由で保険料の徴収ができない場合に限って作業を行ったものである。
 これに対し、平成16年度は消滅時効が完成した債権を誤って徴収した事案をきっかけに同種の事例がないか調査すべきと判断し、滞納整理台帳の記載により債権の時効消滅の有無を精査して欠損処理の範囲を決定した、というものである。
 (エ) 本件における不納欠損処理について、債権の時効消滅に至った理由は次のとおり。
 [1] 窓口における納付交渉ができなかった滞納者に係る債権
 [2] 分納誓約交渉の履行が中途で不履行となり、不履行の間に時効中断の時点から消滅時効期間が経過した債権
エ 滞納整理台帳の記載内容
 滞納者の住所氏名、滞納債権の発生年度及び債権額、滞納債権に関し交渉があった場合における交渉経過、分納誓約がある場合は誓約人、誓約の時期、誓約された債権の範囲に関する情報が記載されていることを確認した。

2 本件請求に係る判断

先に定めた監査対象事項について、次のとおり判断する。

(1) 本件の請求に地方自治法第242条第2項(期間徒過規定)は適用されるか。

ア 問題の所在
 (ア) 本件の請求は、適正な時効管理を「怠る事実」があると主張する。住民監査請求は当該財務会計行為が終了する場合には「当該行為のあった日又は終わった日」から一年を経過する前に行わなければならない(地方自治法第242条第2項)。では、本件「怠る事実」について行為は終了するといえるか。
 (イ) 行為が終了するとしても、行為の終了を知らないことについて「正当な理由」があるときは期間徒過規定は適用されない。本件「怠る事実」について「正当な理由」はあるか。
イ 「怠る事実」の終了について
 財務会計行為である「怠る事実」は、財務会計上行うべき行為を行わないことを意味する。よって「怠る事実」は終了しないと考えられる場合が多い。
 しかし不作為ではあっても具体的な行為の内容によっては終了を観念できる場合がある。
 これを本件についてみると、「適正な時効管理を怠る事実」の主張は保険料の滞納債権の徴収に関して滞納処分や分納誓約といった時効中断の措置を怠り、この不作為によって滞納債権の消滅時効を完成させて確定的に消滅させたことを意味すると解される。時効の中断措置は消滅時効が進行中にしかできない行為であるから、これを怠ることも消滅時効の進行中においてのみ考えることができるものである。
 だとすれば、本件において主張される「怠る事実」は、滞納債権の消滅時効が完成したときに終了するものと考える。
ウ 「正当な理由」の検討
 ここにいう「正当な理由」とは、期間徒過規定を適用して法的安定を貫くことが正義に反すると判断されるような特別の事情を意味し、住民が当該状況の下で住民監査請求をすることができたかどうかが判断基準になると解される。
 この点、本件の請求は旧美原町の保険料の不納欠損処理が予定されている滞納債権について「適正な時効管理を怠る事実」を主張するから、住民が監査請求をすることができたかどうかは、個々の滞納債権の消滅時効の完成を請求人が知り得たかどうかにかかわる。
 これを本件についてみると、旧美原町において滞納債権の整理に用いられていた滞納整理台帳を確認したところ、滞納債権の発生年度と当該債権の交渉経過等の記載はあるが、消滅時効の完成時期や時効中断の有無について明確に記載されているとはいえない。このような記載を手がかりに請求人に対して消滅時効の完成を知り得たというのは、請求人に過大な負担を負わせるもので妥当ではない。
 したがって、本件においては個々の滞納債権の消滅時効の完成を請求人は知りえなかったと判断すべきであり、当該状況の下で住民監査請求をすることはできず「正当な理由」はあるものと解するのが相当である。
エ したがって、本件については地方自治法第242条第2項は適用されない。

(2) 適正な時効管理を「怠る事実」はあるか。

ア 「怠る事実」の具体的内容
 先に検討したとおり、請求人のいう「怠る事実」は、保険料の滞納債権の徴収に関して滞納処分や分納誓約といった時効中断の措置を怠り、この不作為によって滞納債権の消滅時効を完成させて確定的に消滅させたことを意味すると解される。
 さらに、請求人は、消滅時効の完成によって生じた損害を連帯して賠償すべき勧告をするように求め、かつ賠償に際して遅延損害金を併せて主張している。よってこの主張は堺市が旧美原町長等の行為者に対して損害賠償請求権を有する旨の主張であり、本件「怠る事実」は違法性を有する旨を主張していると解される。
イ 「怠る事実」の違法性
 (ア) 問題の所在
 請求人は滞納債権を時効消滅させた行為が堺市に損害を与える違法な行為であると主張する。
 よって、ここでの問題は、消滅時効の進行を中断させず滞納債権を時効消滅させたことが違法な「怠る事実」と評価されるかどうかと理解するのが相当であり、以下この問題について検討する。
 (イ) 旧美原町保険課の取り組みについて
 a これについて、旧美原町保険課の取り組みは、「ア 保険料の滞納整理事務」のとおりである。
 その内容を要約すれば、滞納者と直接に面談し、滞納債権についての分納誓約を取りつけて消滅時効を中断するという手段を中心とし、滞納処分の執行は、滞納者の財産を調査する等して処分の有効性を見極めた上で補充的に実施するということであった。
 b このような滞納整理の状況は、限られた人員のなかで合理的に滞納債権を確保し徴収事務の費用対効果の最大化を図り、同時に制度を周知して福祉施策としての国民健康保険を合理的に運営できるものとして一定の妥当性を有する。
 しかし、こうした滞納整理の方法は、滞納処分の執行をのぞいては来庁した滞納者を対象に滞納整理を行うことを中心としており、来庁しない滞納者については有効ではない。結果として滞納債権の時効消滅につながるものであり、分納誓約による時効中断措置に関する問題点だということはできる。
 また、分納誓約を得て時効が中断されても、その時点から新たに2年の消滅時効期間が経過すれば消滅時効が完成してしまう。この点は保険料の消滅時効期間が2年であることを理解し、その旨を滞納整理台帳等に記載してチェックしておけば防ぐことはできるが、旧美原町においてはこうした事務が充分とはいえない状況であり、このような事務がもとで滞納債権を時効消滅させたと思われるケースも見受けられる。
 c そこで、以上のような過程により生じた滞納債権の時効消滅を、違法な「怠る事実」と考えるべきかが問題となる。
 (ウ) 検討の方針
 「怠る事実」の違法性については、地方自治法に規定がある滞納処分の執行と明文規定がないその他の方法を区別して検討する。
 (エ) 滞納処分の執行について
 滞納処分の執行について、地方自治法第231条の3第3項は、普通地方公共団体の歳入につき督促を受けた者が指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入について地方税の滞納処分の例により処分できると規定する。滞納処分は債務者の意思に反して行政権が強制的に金銭債権を実現する手続であるから法律の根拠規定なしには執行できないところ、国民健康保険の保険料についてはこの規定の他に滞納処分の根拠規定はみあたらないから、この規定の内容に従って執行されるものと解する他はない。だとすれば、唯一の根拠規定が明確に「処分できる」と規定する以上、保険料の滞納債権について滞納処分を執行するかどうかは、当該普通地方公共団体の長の裁量に委ねられていると解される。
 (オ) 滞納処分以外の時効中断措置について
 滞納処分以外の時効中断措置については、長の裁量に委ねられると解することができる明確な根拠規定はない。
 しかし、旧美原町において滞納整理事務の中心的な手段とされていた分納誓約については、滞納者の意思により自己の債務を承認することが時効中断の根拠であり、強制処分である滞納処分と異なり分納誓約交渉を行うこと自体についての法律上の根拠は不要と解され、その実施は長の裁量に属するものと解する。
 (カ) 裁量権の実質的根拠
 このように、時効中断措置の実施については基本的に長の裁量に委ねられると解されるが、これは単に法の規定の仕方がそうであるだけではなく、実質的にみても一定の妥当性がある。
 a 滞納債権の回収を図る場合、[1]当該滞納債権について滞納処分を執行する方法と、[2]滞納債権の存続を図って債務者との納付交渉を継続し任意の納付を求めることに大別される。滞納処分の執行については滞納者が差し押さえるべき財産を有していない場合には有益な債権回収とはなり得ないし手続の進行に一定の時間や費用がかかるという問題もある。
 一方、滞納債権の存続を図る場合においても、将来において現実に債権を回収する際には滞納者の任意の履行によるしかなく、保険制度の趣旨を説明して納付を求めるべきはもちろんであるが、債務者の意思によっては必ずしも有益な債権回収が図られるものともいえない。納付交渉の実効を図るには豊富かつ交渉術に長けた職員を確保する必要もあり、相当な予算措置が必要になる場合もある。
 滞納債権の回収に関しては、回収手段の費用対効果及び効率性の問題をふまえて判断されるべきであり、滞納者の居所が不明でありその調査が困難である場合など、費用対効果が充分ではなく効率が良いとはいえない場合には、保険料の2年の短期消滅時効制度を利用せざるを得ない場合もありうるものと考える。
 b 国民健康保険にかかわる事務は、医療給付を保障する国民健康保険被保険者証の交付、国保資格の取得喪失などの届出受付、人間ドック等の保健事業等様々である。このような多様な事務のなかで、健康保険の対象者を強制的に加入させ保険料の支払いを加入者の義務としているのは、国民健康保険制度を維持しその適正な運営を確保するためであると解される。
 だとすれば、保険料の滞納徴収事務のあり方は、保険制度の適正な運営を害しない範囲で行われるべきであり、他の事務との調和を保ちながら実施されていくべきものだと考える。
 こうした見地に立ってどの事務をどのように評価し、国民健康保険制度をどう運営していくかについても、国民健康保険の実施主体たる市町村の執行機関として長の権限と責任において判断されるべき事柄である。
 (キ) 裁量権の逸脱や濫用について
 a 以上より、時効中断措置の実施は長の裁量行為であり、時効中断措置を行わないことが裁量権の逸脱や濫用にあたるような特段の事由がない限り、滞納処分を執行せず、その他の時効中断措置を講じないことによって消滅時効を中断しないことが違法な「怠る事実」とは判断されない。
 b そこで、本件において裁量権の逸脱や濫用があるか検討すると、国民健康保険制度の運営における裁量権は前述のような制度の枠組みからしてかなり広いと考えるのが妥当であり、その逸脱や濫用は時効中断に関する事務が何らの方針もなく恣意的に行われる場合に限定されるものと解される。
 前述のように、旧美原町の滞納整理事務は一定の事務処理方針に基づいて行われており、裁量権が恣意的に行使されているとはいえない。
 したがって、裁量権の逸脱や濫用があるとはいえない。
 (ク) 以上のように、平成16年度に不納欠損処理が予定されている保険料の滞納債権について、消滅時効の進行を中断させず滞納債権を時効消滅させたことは、違法な「怠る事実」であるとはいえないと考える。

(3) 結論

 以上から、本件において適正な時効管理を違法に「怠る事実」があるとはいえず、請求人の主張には理由がないものと判断する。

以上

監査結果に添える意見

 請求人の主張には理由がないものと判断されるが、監査の結果、旧美原町保険課の不納欠損処理について事務処理上の問題点が明らかとなったので、地方自治法第199条第10項の規定により、次のとおり監査結果に添える意見を提出する。

 請求に係る事実において述べたとおり、旧美原町では過去20数年以上前から保険料の不納欠損処理が行われていなかったという状況が明らかとなった。
 平成15年8月18日、美原町監査委員が行った「町税等の滞納に係る特別監査」の結果を受けて平成16年9月3日、ようやく平成15年度決算の不納欠損処理が行われ一定の過去の滞納債権が整理されたが、これに引き続いて本件の請求に係る平成16年度の不納欠損処理が予定されている。
 また、このような不納欠損処理の経過や今回の事務処理の実態調査から、過去に時効消滅した滞納債権がなお整理しきれていないのではないかとの疑念を持たざるを得ない。
 不納欠損処理とは歳入決算において徴収できない債権の数額を記載することであり、その数額は当該会計年度の歳入事務の状況を明示する重要な指標であるから、各会計年度において、適切に処理されるべきものである。
 こうした観点から、旧美原町の保険料の滞納債権について、改めて全体的調査のうえ速やかに適切な事務処理を行われたい。

以上

このページの作成担当

監査委員事務局
電話:072-228-7899 ファックス:072-222-0333
〒590-0078 堺市堺区南瓦町3番1号 堺市役所高層館19階

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