ときをたびするトリがみたあるひのさかい/てい学年向け
更新日:2016年2月5日
おとうさん&おかあさんといっしょによもう (^o^)
おはなしのはじまり
トリは金いろにきらめくつばさをひろげ、ゆったりと空をまっていました。
はるか下に見えるのは、おさむらいさんがいたじだいのさかいの町。
目じるしのように大きな古墳(こふん)がよこたわっています。
そのおかはとおいむかしの帝(みかど)のおはかだと、
とうじの人々はつたえきいていますが、まるとだいけいをくみあわせた
かぎあなのようなかたちをしていることは、まだしられていません。
だれも古墳(こふん)を上から見たことがないのです。
ひこうきもこうそうビルもなかったじだい。
もちろんテレビやスマホどころかラジオもでんわもまだ生まれていません。
きせつはなつのおわり。
きょうは年にいちどの「すみよしさんのさいれい」の日。
きたのすみよしたいしゃを出たぎょうれつが、
みなみにあるさかいの町へやって来ました。
きびしいなつをのりこえ、
この先の一年もかぞくがぶじにすごせることをいのって、
いろとりどりのしょうぞくをまとった町人たちがねりあるいています。
せんとうでは、すみよしさんのおつかいのウサギが、
はねながらみちあんないをしていることでしょう。
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トリには、ふしぎな力がありました。
にんげんがあたまの中でかんがえていることが、
こえに出したことばのようにきこえるのです。
なん千年ものときをたびしているあいだに、いつのまにかみについた力でした。
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志家野 志家男 ものがたり
「あーあ。このままりっぱなさむらいたいしょうになって、
とのさままで上りつめたいものだな」
そんなことをかんがえながらねりあるいているのは、志家野志家男(しけのしけお)です。
年は25になったところ。まだひとりもので、おやのすねをかじっています。
とのさまになりたいなどと言いながら、なんのどりょくもしていません。
けっこんしたい気もちはありますが、およめさんをさがすのはめんどうです。
そんな志家男(しけお)ですが、とおりかがった糸やのかんばんむすめに、
「おはようさん」とこえをかけました。
きょうはぶしょうのかっこうをしているので、ちょっぴり気が大きくなったのです。
けれども、志家男(しけお)はどうしようもないいくじなしでした。
のら犬にびっくりして大ごえを出したために、
りっぱなしょうぞくのすそが犬にかみつかれ、ちぎれてしまいました。
「これってとのさまにおかりしているたいせつなしょうぞくとちゃうんやろか。どないしよ」
と、志家男(しけお)はあおざめました。そのいっぽうで、
「さいれいのれつにとびかかってきたのら犬をおいはらおうとしてしょうぞくがやぶれた、
いうことにしたらどうやろ。とのさまに気に入られて、
おしろではたらかせてもらえんやろか」
と、ずるいかんがえもあたまにうかぶのでした。
「ついでにとのさまのむすめがよめさんになってくれたら、一生ラクできるなあ」
そんなことばかりかんがえているなさけないわかものです。
♪
弦鶴男 ものがたり
「ああ、うどんくいたいなあ。ながいぎょうれつよりもながいうどん。
うどんうどん、うどんくいたい」
あたまの中でうどんがうずまいている男は、弦鶴男(つるつるお)です。
ごきんじょさんからは「つるつるさん」とよばれています。
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としは170さいといううわさです。
ほんとうは70さいですが、
「うどんをたべるとなが生きするらしいで」
「つるつるさん見てみ。おはだつるつるやん」
と、うわさばなしにおひれがついたのです。
子どもは129にんいるといううわさです。
ほんとうは、子どもは9にんで、まごが40にん、ひまごが80にん、
ぜんぶあわせて129にんなのですが、
これまたうわさばなしにおひれがついたのです。
「このあと、なにうどんたべよかな。にくうどんにしよか。ひやしうどんがええな。
すだちをきゅっとしぼって、つるつるっとたべよか」
うどんのことをかんがえていると、足どりがかるくなり、
つるつるさんはずんずんすすんでいきました。
そのうしろすがたを見て、
「つるつるさん、げん気やわあ」
「あの人、もう200さいらしいで」
「子どもも二百人おるらしいで」
つるつるさんのなが生きでんせつは、うどんのようにながくながくのびていきます。
著津波亜 ものがたり
「あさおきて、蝦夷(えぞ)から堺(さかい)まであるいてきたので、はらがへった。
にんげんをくいたいな。どのにんげんをくうとしようか」
そんなぶっそうなこえがきこえてきました。
まさか、すみよしさんのさいれいに人くい男がまぎれこんでいたとは……。
しかし、かぶとにかこまれたかおにトリが目をこらすと、
かわらばんというよみものをかいている著津波亜(ちょっぱー)でした。
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「ああよかった、おはなしに出てくる人くい男のこころのこえだったのか」
と、トリはほっとしました。
「どのにんげんがうまそうかな。男のほうがたべごたえがありそうだな。
よし、あの男をくってやろう」
すっかり人くい男になりきっている著津波亜(ちょっぱー)は、
ひなわじゅうをかまえました。
あの男とは、先ほど著津波亜(ちょっぱー)をおいこしていったつるつるさんです。
つるつるさんでんせつのききです。なんとかしなくては……。
あせったトリは、「こうなったらしかたがない」とかくごをきめました。
ぽちゃん。著津波亜(ちょっぱー)のあたまの上に
なまあたたかくてやわらかいなにかがおちました。
「わ、なんやなんや。うっわー。トリのふんやー」
トリのおとしもので著津波亜(ちょっぱー)はげんじつにひきもどされました。
こうして、つるつるさんとつるつるさんでんせつはぶじまもられたのでした。
♪
ピリオド・マネー・ドル・ユーロものがたり
ぎょうれつの中から、いらだった女のこころのこえがきこえました。
「なにもかもがおもいどおりにいかない。むすめはいうことをきかないし、
むすめのべんぴはなおらないし、わたしのひまんもなおらない。
こんなに歩かされて、出あいもないし、やせないし、
一ドルももらえないなんて、くたびれぞんだ」
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かのじょの名はピリオド・マネー・ドル・ユーロ。
たいそうふうがわりな名まえですが、かんがえていることもかわっています。
「ああ、くろげわぎゅうのサーロインステーキをたべたい。
400グラムだって、ぺろりとたいらげられる」
サーロインステーキということばを
さかいの町人たちがしるようになるのは、ずっとあとのじだいです。
もしかしたら、かのじょにも、ときをたびする力があるのかもしれません。
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「アカガミがなんだ。ミカドにこうぎしてやる。
せんそうなんかにいったら、くろげわぎゅうがたべられなくなるじゃないか」
アカガミというのは、なん百年もあとのせかいたいせんちゅうに
せんちへおくり出されることになった男の人にとどけられたあの赤がみのことでしょうか。
けれど、ピリオド・マネー・ドル・ユーロは女です。
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かのじょがぷんぷんとおこっているのが、いつのじだいのどこのくにの
せんそうのことなのかはわかりません。
でも、いつのじだいでも、どこにいても、すきなものをおなかいっぱい
たべられるのが、へいわってことなのだなあとトリはおもいました。
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お育 ものがたり
「どんなきものがええやろか」
さいれいを見ぶつしながらおもいなやんでいるのは、
ちかくのたんものやではたらいているおいくです。
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おいくのかんがえるえがらは、おみせでもたいそうなひょうばんでした。
とおりすぎるぎょうれつをねっしんなまなざしで見つめているのは、
しごとのためでしょうか。
いいえ、べつなりゆうがあるのです。
おまつりにきていくきものをたんものやのおかみさんにかりたとき、
おいくは、おかみさんにこういわれたのです。
「おゆみちゃんにきれいなおべべこさえたり。
たんものだいとしたてだいは、うちからのおいわいや」
おいくのむすめのおゆみは、10さいになったばかり。
おいくがたんものやへはたらきに出ているあいだ、しょくじをつくったり、
そうじをしたり、いもうとやおとうとのめんどうを見たり、
はたらきものでこころやさしい女の子です。
「あのいろはすきやけど、子どもにははでやなあ」
「あのがらは、おゆみにはにあわんかなあ」
いつもはどんどんえがらがおもいつくというのに、なかなかかんがえがまとまりません。
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おゆみは、えをかくのが大すきです。
「どうやったら、おかあさんみたいにかけるようになるん?」とおゆみにきかれると、
「まいにちかいていたら、どんどん上手になるんや」とおいくはこたえます。
そういえばと、おいくはおもい出しました。
「わたしも大きくなったら、おべべのえがらかんがえる人になりたい」
と、おゆみがいったことがあったのです。
「そうや。おゆみにかかせたろ」
おいくは、早くおゆみにつたえたくて、いそぎ足でいえへむかいました。
おかみさんにかりたじょうとうなきもののすそがはだけないように気をつけながら。
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五右衛門 ものがたり
「あーあ。いえにかえりたないなあ。どこでじかんつぶそか」
うかないかおをしている男は五右衛門(ごえもん)といいます。
あさ、いえを出るとき、子どもたちはおとうさんにあそんでほしくて、
「おとうちゃんいかんといて」と
五右衛門(ごえもん)のきもののそでをつかんでひきとめました。
「年にいちどのだいじなすみよしさんのさいれいなんや」と
五右衛門(ごえもん)がふりはらうと、
「おとうちゃん、おさけのみたいだけやろ」と、ちょうなんのたろうがいいました。
「アホなこといいなや。すみよしさんのバチがあたるで」
五右衛門(ごえもん)はおもわずたろうをつきとばしました。
「おとうちゃんのアホ。おとうちゃんなんかきらいや」
たろうがなき、おとうとのじろうとさぶろうも
「おとうちゃんなんかきらいや、きらいや」とわめきました。
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たしかに、五右衛門(ごえもん)はさいれいのあとにのむ
おさけがたのしみだったのです。
けれど、五右衛門(ごえもん)はことしのぎょうれつにはくわわりませんでした。
こんなうかないかおでねりあるいたら、
すみよしさんのバチがあたりそうな気がしたのでした。
そのかわりじんじゃに立ちよって、かぞくのぶじとあんぜんをねがう
おまもりをかいました。
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すこし気もちがかるくなった五右衛門(ごえもん)は、大すきなおさけをのみました。
ところが、おさけをのむと、またあさのことがいまいましくおもい出されて、
「アホたれ。おれはこんなにかぞくのことをかんがえたってんのに、
あいつら、なーんもわかってへん。だいたい、にょうぼうがあいつらをあまやかすからや」
おや、せっかくかったおまもりが、足もとにおちてしまっています。
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日世輪 酒太郎 ものがたり
「なんでわかってくれへんのやろ」
じんじゃにおさめるコイをたらいであらいながら、
くらいかおをしている男は、日世輪酒太郎(ひよわさけたろう)。
ひよわで気がよわく、さけの力をかりなければいいたいこともいえません。
にょうぼうのおくまは、酒太郎(さけたろう)よりもからだが大きく、こえも大きく、
クマがおそいかかってきたらすででたおしてしまいそうなつよい女です。
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おくまがじなりのようないびきをかいてねむるそばで、
月を見上げてさけをのむじかんが、酒太郎(さけたろう)はしあわせでした。
ところが、さくばんのこと。
いつものように酒太郎(さけたろう)が一人でさけをのみはじめると、
おくまがとつぜんがばっとおきて、酒太郎(さけたろう)をせおいなげしました。
「あんた、うわ気してるやろっ」
「うわ気なんか、してへん」
「うそや。わかい女とこっそりあってたやろっ」
すごみのあるおくまの大ごえにしょうじのかみがふるえ、
酒太郎(さけたろう)もふるえ上がりました。
「うわ気なんか……そんなこわいことできるわけないやろ」
たたみにうちつけたいたみがのこるうでをうごかしながら、
酒太郎(さけたろう)はこいをあらいます。
「わかい女なんかしらん。いいがかりもええとこや。にょうぼうにないしょなんか……」
ふと酒太郎(さけたろう)は手をとめました。
「もしかしたら……」
じんじゃにおさめるコイをさばいたときに出るほねやないぞうなどの「あら」を
とくべつにもちかえってもいいと巫女(みこ)さんが
酒太郎(さけたろう)につたえにきたことがありました。
それをたまたまおくまが見ていたのではないだろうか……。
「なんや、それやったら、コイの「あら」をおくまに見せたったら、すむはなしや」
そうおもって、酒太郎(さけたろう)はほっとしたかおになりました。
「それにしても、おくまのやつ、おれをなげとばすほどやきもちやいとったとはなあ」
酒太郎(さけたろう)はにやにやしながらコイをあらいました。
♪
おわりのものがたり (^_^)
まだまだきいてみたい気もちはありますが、
たい力をつかいきってしまうまえに、ねどこへかえったほうがよさそうです。
トリはなん百年もかなたのさかいの町をめざして、金いろのはねをはばたかせました。
たてものが空へむかってのび、ほそうされたみちをじどう車がゆきかうのが見えてきました。
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とおいむかしの帝(みかど)がねむるといわれる古墳(こふん)には、
あたしい木々がうえられ、うつくしい森がかたちづくられています。
そこは たんものやのおいくや、さけのみの五右衛門(ごえもん)の
まごのまごのまごたちがくらす、いまのさかいの町です。
ひよわな酒太郎(さけたろう)とつよいおくまふうふのまごたちもくらしています。
うどんをたべてなが生きのつるつるさんのまごたちはなん人になったのでしょう。
めんどうくさがりやの志家男(しけお)がけっこんできたどうかかはわかりません。
ピリオド・マネー・ドル・ユーロがせんそうへいかかずにすんだのかはわかりません。
著津波亜(ちょっぱー)の書いた人くい男のかわら本がひょうばんになったのかどうかはわかりません。
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けれど、トリが見てきたさいれいの日といまは、たしかにつながっています。
あの日からまい日がつながって1年になり、100年になり、
せいれき2015年の今があります。
そして、「すみよしさんのさいれい」はいまもうけつがれています。
むかしとはいくぶんすがたをかえていますが、この先一年も
かぞくがぶじにすごせるようにといのる人々の気もちはかわりません。
これからも、いつのじだいも、かわらないことでしょう。
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たてかえがはじまった堺市民会館(さかいしみんかいかん)が見えてきました。
そのまえをはしる大どおりは、フェニックスどおりです。
70年まえのせかい大戦でさかいの町は大ぶぶんがやけてしまいました。
たくさんの人がかぞくをうしない、いえをうしない、きぼうをうしないました。
そのご、町のふっこうをねがって、「不死鳥(ふしちょう)」をいみする
フェニックスの木が町の中心に植えられたのでした。
その木の一本にトリはしずかにすいこまれていきました。
(^_^)/~
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