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堺市
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オムニバスドラマ「阪堺電車」

更新日:2014年2月28日


M=モノローグ
T=テロップ

 
○ 走る阪堺電車・外観(朝)
 
朝日を受けて堺の町を走る阪堺電車。
昭和三年に作られた「モ161号形」。
当時の姿に復元されている。
 
電車M「おはようございます。わたくし、昭和三年生まれ。この堺の町を行ったり来たりして、かれこれ八十年あまり。すっかりおじいちゃんですが、今も現役で走ってます」
 
電車、寺地町駅手前を走っている。
  
○ 同・車内
 
電車M「元気で長生きの秘訣いうたら、そうですなあ。毎日ぎょうさん笑てることですかなあ。お客さん見てたら、おもろうて、今日もええもん見せてもろた、明日も頑張ろうて思うんですわ」
 
揺られている乗客たち。
おしゃべりに花咲かせているオバチャン三人組の里子、和子、市子。
 
里子「ほんま、びっくりするで。ベーコンもハムも食べ放題」
 
和子「パンもおいしいん?」
 
里子「焼きたてのデニッシュ。それも食べ放題」
 
市子「うわー、楽しみやわあ」
 
電車M「乗り放題の切符で食べ放題をハシゴしてる元気なオバチャン三人組。常連さんですわ」
 
学生鞄とスポーツバッグを持った制服姿の高校生、上田翔太(16)。
その近くに、幼稚園の制服を着た美結(5)と母親。
 
電車M「最近目が離せんのは、この二人。サッカー部の朝練に向かう高校生と、幼稚園に向かう女の子。こう見えて、ライバルでんねん」
 
互いを横目で意識している上田と美結。
 
電車M「何を取り合ってるか言うたら、これ」
 
壁際にある降車ボタン。
 

T 「第1話 ボタン争奪戦」
 
電車M「始まりは月曜日やった」
 
○ 電車の回想・走る阪堺電車・車内
 
T 「月曜日」
 
車掌「次は花田口、次は花田口です。お降りの方は」
 
そのアナウンスに反応して、降車ボタンに手をのばす上田。
一瞬早くベルが鳴る。
上田のすぐ横のボタンを美結が押した。
ベルが聞こえた方へ目をやる。
上田を得意げな顔で見る美結。
 
上田「(ポーカーフェイスで)」
 
美結「(鼻で笑って)フンッ」
 
電車M「それが二人の出会いや」
 
○ 電車の回想・走る阪堺電車・車内(日替わり)
 
T 「火曜日」
 
揺られている上田。
御陵前駅で美結と母親が乗ってくる。
 
美結「おかあさん、みゆ今日もボタン押したい!」
 
母親「そやなあ。また押せたらええなぁ」
 
美結、ちらっと上田を見て、目でプレッシャーをかける。
 
上田「(ポーカーフェイスで)」
 
電車M「幼稚園児相手にムキになったかてしゃあないて高校生は思ったんやけどな」
 
 ×     ×     ×
 
時間経過。電車が大小路駅を発車する。
 
車掌「次は花田口、花田口です」
 
アナウンスと同時にピンポーン!
 
美結「やったあ、今日もボタン押せたぁ」
 
母親「良かったなぁ」
 
ほのぼのした目で美結を見る上田。
 
美結「フン、あきらめんねや」
 
上田「はああ?」
 
美結「根性なしやな」
 
母親「美結」
 
とたしなめて、上田に、
 
母親「ごめんなさいね」
 
上田「いえ」
 
美結「(上田をにらんで)明日は負けなや」
 
上田「(にらみ返して)」
 
バチバチと視線を交わす上田と美結。
 
電車M「そっからボタン争奪戦が始まったんや」
 
○ モンタージュ・ボタン争奪戦
 
T 「水曜日」
 
ボタンに手をかける上田と美結。
 
車掌「次は花田口、花田口です」
 
ボタンを押す上田と美結。
美結のボタンがベルを鳴らす。
タッチの差。
勝ち誇って上田を見る美結。
 
T 「木曜日」
 
ボタンに手をかける上田と美結。
 
車掌「次は花田口、花田口です」
 
ボタンを押す上田と美結。
美結のボタンがベルを鳴らす。
タッチの差。
勝ち誇って上田を見る美結。
 
電車M「今のところ、女の子が全戦全勝」
 
○ 走る阪堺電車・車内(現在)
 
電車M「さて、今日はどないなるやろ」
 
寺地町を出る電車。
ボタンに手をかけ、美結を見る上田。
美結もボタンに手をかけ、上田を見る。
 
電車M「おーおー、まだ三つも駅あるで。二人とも気合入ってるなあ」
 
宿院駅に停車する電車。
乗り込んで来た制服姿の春野絵理。
上田と目が合い、
 
絵里「あ、上田くん、おはよう」
 
上田「うぇ、え、お早う」
 
絵里「朝練?」
 
上田「う、うん。バレー部も?」
 
絵里「うん。お互いがんばろな」
 
上田「うん」
 
電車M「こら、勝負に集中でけへんなあ」
 
ボタンに手をかけたままの上田。
そんな上田を意味ありげに見る美結。
 
上田「(見んな、と目で訴える)」
 
美結「(ニヤニヤ)」
 
絵里「上田くん、どうかしたん?」
 
上田「ど、どうもせえへんで!」
 
いったんボタンから手を離す上田。
ちらりと美結を見る。
ボタンに手をかけたままの美結。
勝負はもらったという顔で上田を見る。
 
上田「くそっ」
 
絵里「え?」
 
上田「ううん、なんでもない」
 
電車が大小路駅を発車する。
 
車掌「次は花田口、花田口です」
 
アナウンスと同時にピンポーン!
 
美結「(上田を見る)」
 
上田「(俺とちゃうでと首を振る)」
 
美結「(みゆじゃないと首を振る)」
 
鳴らしたのは、絵里。
 
絵里「押しといたで」
 
上田「!」
 
美結「!」
 
車掌「次、止まります。ご乗車有難うございました」
 
電車M「勝負は引き分けや」
 
○ 実景・沿線の風景(時間経過)
 
○ 走る阪堺電車・車内
 
御陵前駅から浜寺公園駅方面へ向かっている電車。
お年寄りが多い車内。
吊り革につかまっている、ぼさぼさ髪のサラリーマン、川谷太郎。
 
電車M「あれ、今日はえらい遅いやないか。寝坊かいな。髪ぼさぼさや」
 
川谷「うんこしてねぇな……」
 
と、おなかをさする。
 
電車M「トイレ行く間ぁもなかったんか」

 
T 「第2話 便意」
 
便意を紛らわせようと周りを見渡す川谷。
すぐ隣に、イチャイチャする今風の若いカップル。
 
川谷「(イライラして)」
 
おなかに差し込みを感じ、手をやる川谷。耐えていると、
 
カップルの男「あ、ちょっとすいませぇん、ここらへんでぇ、なんかおもしろいとこないっスかねぇ~」
 
話している間も、彼女を触りまくっているカップルの男。
イライラと便意が募る川谷。
 
川谷「(耐えて)」
 
カップルの男「堺初めてでぇ、デートスポットとか、よくわかんなくてぇ~」
 
川谷「(耐えて)」
 
電車M「兄ちゃん、聞く相手間違ってるで。この人な、今それどころちゃうし、いかにもデートに縁なさそうやろ」
 
川谷「(耐えつつ)大仙古墳とか」
 
カップルの男「古墳?」
 
川谷「教科書にも載ってる……くらい……有名やし」
 
カップルの男「そこ、気分盛り上がる?」
 
川谷「(耐えつつ)形は盛り上がってる……う、こっちも盛り上がってきた……」
 
とおなかを押さえる。
 
電車M「あんまりしゃべらんとき。おなかに響くで」
 
川谷「(耐えつつ)近くに大仙公園もあるし……あとは市役所の展望ロビーとか、千利休が生まれた町やから、かん袋のくるみ餅とか……和菓子も有名……う……終点にある浜寺公園もおすすめ……う……」
 
カップルの男「くわしいっすね」
 
川谷「(耐えつつ)デートスポットは、まかせて……う」
 
電車M「あーあー、モテへんくせにカッコつけて」
 
カップルの男「あ、よさそうっスね、ありがと~」
 
次の電停、東湊駅が近づいてくる。
 
川谷「もう少しや」
 
が、電停を通過する電車。
 
川谷「え、なんで?」
 
電車M「そら降車ボタン押さな、止まらんで」
 
川谷、おなかを押さえて、脂汗。
 
川谷「あかん、限界や」
 
誰かが降車ボタンを押す。
 
「次、止まります」のランプが点く。
 
電車M「頼むで。しっかり持ちこたえてや。ここでドヒャーってなるの、堪忍やで」
 
   ×      ×      ×
 
石津駅に電車が停車し、ドアが開く。
 
降りようとする川谷。
オバチャン三人組の里子、和子、市子が乗り込んで来る。
 
和子「あのモーニングはびっくりしたわ」
 
里子「あれで350円やで」
 
市子「電車代の元取ったわ」
 
里子「また行こな」
 
ぐいぐいとオバチャンたちに押されて後ずさる川谷。

川谷「降ります、降ります」
 
とオバチャンらを押しのけ、降車しようとすると、
 
里子「ちょっと兄ちゃん、どこ触ってんの!」 
 
和子「えーっ! チカン!?」
 
市子「この人チカンです!」
 
車内の冷たい視線が川谷に集まる。
 
川谷「いやいや! 違います!」
 
あわてて車内の奥の方へ下がる川谷。
無情にも扉が閉まり、警笛を鳴らして走り出す電車。
 
川谷「(絶望して)」
 
オバチャン三人組をにらむ川谷。
大きな差し込みが襲う。
おなかを押さえ、体を折る川谷。
降車ボタンに手を伸ばし、押す。
と、川谷の目の前に座っていた全身黒ずくめの中年男が立ち上がる。
オバチャン三人を押しのけ、運転席へ大股で向かう男。
運転席のそばまで来ると、乗客を振り返り、
 
黒ずくめの男「この電車を爆破する!」
 
と黒いコートを脱ぎ捨てる。
 
オバチャン三人「キャー!」
 
腹にはダイナマイトらしきものが巻きつけられ、手には起爆装置らしきものを握っている。
 
里子「あれ、ダイナマイトやん!」
 
和子「この人本気やで!」
 
市子「チン電ジャックや!」
 
凍りつく車内。
 
川谷「(耐えつつ)おいおい」
 
黒ずくめの男、運転手に向かい、
 
黒ずくめの男「爆破されたくなかったら、そのまま走り続けろ!」
 
川谷「(耐えつつ)ふざけんな」
 
次の瞬間、猛然と黒ずくめの男に突進する川谷。
 
川谷「走り続けたら手遅れになる!」
 
黒ずくめの男「なんだと!? 爆破されたいのか!?」
 
川谷「もう爆発しそうや!」
 
そのとき、電車が激しく揺れ、よろめく黒ずくめの男。
隙をついて起爆装置を取り上げる川谷。
運転手もタイミングを合わせ、黒ずくめの男を取り押さえる。
 
和子「兄ちゃん、ようやった!」
 
市子「お手柄や!」
 
里子「チカンは許したる!」
 
大げさに拍手するオバチャンたち。
川谷への拍手が車内に広がる。
 
川谷「(限界で)」
 
○ 船尾駅
 
電車が到着する。
待ち構えた駅員に連行される黒ずくめの男。
電車を降り、トイレに駆け出す川谷。
川谷を取り囲む報道陣。
 
報道陣1「あなたが爆発を防いだヒーローですね!」
 
報道陣2「どうやって止めたんですか!」
 
報道陣3「詳しい状況を聞かせてください!」
 
川谷「あっ、ああ~っっ!」
 
電車M「あーあ、こっちが爆発してしもた」
 
○ 実景・沿線の風景
 
○ 船尾駅・停車中の阪堺電車・車内
 
座席に座っているオバチャン三人組。
 
里子「さっきはびっくりしたなー」
 
和子「びっくりしたら、おなかすいたわ」
 
市子「お昼何食べる?」
 
和子「こんなんあるけど」
 
とクーポンを取り出す。
 
市子「お寿司食べ放題半額!」
 
里子「そこ行こ」
 
みずきとその彼氏、ななせが手をつないで乗って来る。
 
みずき「ななせ座りや」
 
ななせ「うん、ありがとう」
 
と里子の隣に腰を下ろす。
 
ななせ「かばん持とっか」
 
みずき「(かばん渡して)ん」 
 
ななせ「(受け取り)ん」

 
T 「第3話 幼なじみ」
 
○ 走る阪堺電車・車内
 
ななせ「そういえばクリスマスで一年やな~」
 
みずき「あっそうや……な」
 
電車が大きく揺れる。
ぐらつき、後ろによろける、みずき。
 
男の声「Oops」
 
と声がして、後ろに立っている男がみずきを受け止める。
 
みずき「え?」
 
と振り返ると、同い年ぐらいの男。
 
みずき「すみません」
 
男「いえ」
 
見ていたななせが、
 
ななせ「あん? なお?」
 
みずき「え?」
 
と男を見る。
 
男(なお)、驚いた顔になり、
 
なお「え?」
 
とななせとみずきを見る。
 
なお「ななせ?」
 
ななせ「久しぶり」
 
みずき「なおなん? ほんまになおなん!」
 
なお「ひょっとして、みずき?」
 
みずき「うん」
 
なお「キレイになってて、わからんかった」
 
みずきとななせの首元に同じネックレスが見える。
 
なお「(見て)」
 
みずき「なお、いつ帰ってきたん?」
 
なお「きのう」
 
ななせ「そうなんや」
 
そんなやりとりを興味津々で聞いているオバチャン三人。
 
里子「何なに? あんたら何年ぶりなん?」
 
みずき「え……中学校上がったときに、なおがロンドン行ったから……」
 
ななせ「七年とか?」
 
なお「それぐらい」
 
和子「幼なじみなん?」
 
みずき「はい」
 
なお「まさか、こんなところでなあ。二人一緒に会えると思わんかったわ」
 
ななせ「俺ら、たいがい一緒やし」
 
ななせとなお、みずきをめぐって視線の火花を散らす。
 
里子「あんたら、小さい頃、カノジョ取り合ってたんやろ?」
 
とみずきを指す。
 
市子「今もちゃうん?」
 
和子「三角関係ちゅうやつな」
 
なお「……」
 
ななせ「……」
 
みずき「……」
 
里子「あんた、どっち取るん?」
 
みずき「え……」
 
里子「私は、こっちが好みやわ」
 
と、ななせを指す。
 
市子「こっちのほうがお似合いちゃう?」
 
と、なおを指す。
 
和子「うちもそう思う」
 
ななせ「関係ないやないですか」
 
里子「関係はないけど、興味はある」
 
興味津々の目のオバチャンたち。
 
みずき「あ、ハマコーや!」
 
と窓の外を指差す。
見る、ななせ、なお、オバチャンたち。
浜寺公園が見える。
 
市子「ハマコー? ああ、浜寺公園な」
 
和子「若い子はなんでも短するから」
 
みずき「なつかしいなあ。よう三人で遊んだやん」
 
うなずく、ななせとなお。
 
みずき「行ってみる?」
 
電車が浜寺公園駅に停車し、扉が開く。
終点なので乗客は全員降りる。
みずきの後から降りる、ななせとなお。
 
ななせ「みずきはゆずらへんから」
 
なお「俺も負けへんからな」
 
バシバシと視線の火花が散る。
その後ろから、オバチャン三人が、
 
里子「面白そうやな」
 
和子「青春やわ」
 
市子「ついて行こ」
 
と続いて降り、ついて行く。
 
電車M「気になるなあ。けど、さすがについて行くわけに行かへんわな」
 
○ 実景・沿線の風景
 
○ 走る阪堺電車・車内
 
大小路駅から花田口駅へ向かっている電車。
 
運転席近くに座っている耳原与四郎と三国晶子。
 
晶子「今日のデート楽しかったなあ」
 
与四郎「うん」
 
与四郎、鞄から小さな箱を取り出す。
 
電車M「お、その箱は何や?」
 
白いリボンをかけた青い小さな箱。
前を向いている晶子は気づいていない。
 
電車M「大きさからしたら、指輪かいな。プロポーズする気ぃか」
 
晶子「今度はどこに行く?」
 
与四郎「う、うん。あのさ……」
 
晶子「そうそう、うちのお母さんが包丁の調子悪いって言ってるねん。与四郎にお願いしてもええかな」
 
与四郎「ええよ」
 
手の中の箱に目をやり、もじもじしている与四郎。
 
電車M「ほら、はよ切り出さんと、彼女、降りてまうで」
 
与四郎「晶子、あんな……」
 
晶子「そうや、今度は観覧車乗りに行こ」
 
与四郎「そうやな。それでな……」
 
車掌「花田口、花田口」
 
電車が花田口駅に停車し、扉が開く。
 
晶子「あ、もう着いた」
 
与四郎「……」
 
晶子「じゃあまたね。ばいばい」
 
と手を振り、降りる。
小さくなる晶子を見つめる与四郎。
持っていた箱に目を移し、ため息。
 
電車M「あーあ、行ってしもた」
 
少し離れて、一人で椅子に座り、つまらなさそうに携帯をいじっている山口建也(17)。
 
電車M「こっちにも浮かない顔した男が一人」
 
山口「(ブツブツ)あいつ、今日は暇やから一日中遊べるて言うてたのになぁ」
 
男の声「つかみが欲しいんだよな。堺って、他になんかないの?」
 
顔を上げる山口。花田口駅で乗り込んできたロケ隊リーダーとカメラを担いだカメラマン。
リーダーと目が合う山口。

 
T 「第4話 まさかのロケ電」
 
リーダー「ねえ、君。堺の人?」
 
山口「あ、はい」
 
リーダー「今さ、堺めぐりの番組のロケしてるんだけど。(カメラマンに)あ、一応回しといて。(山口に)いいよね?」
 
山口「あ、はい」
 
カメラマンが山口にカメラを向ける。
 
リーダー「堺っていえば、何?」
 
山口「何って?」
 
リーダー「これっての、ないの?」
 
山口「ああ、千利休……とかですかね」
 
リーダー「あー、そうだよね! 堺といえば千利休。そしてお茶だよね?」
 
山口「そうですね」
 
リーダー「さっきね、茶道体験っての、行ってきたんだけど、お茶菓子がすっげーうまかったなあ」
 
山口「……僕はそういうところでお茶を飲んだことがないんで」
 
リーダー「そうなんだ。あ、お茶菓子で思い出したんだけど、『かん袋』って有名でしょ?そこの『くるみ餅』も食べてきたんだけど、あれ、すごくおいしいね」
 
山口「へぇー」
 
リーダー「それでさ、初めて知ったんだけど、くるみ餅ってクルミの実とかが入ってないんだってね?」
 
山口「え! そうなんですか!?」
 
リーダー「え!?」
 
山口「え!?」
 
リーダー「あ、知らなかったんだ? おいしいからさ、今度食べてみなよ」
 
山口「そ、そうですね。そうします」
 
リーダー「あれ、なんか、こっちが取材してるはずが、教えちゃってる?」
 
山口「あ、なんか、逆っすね」
 
リーダー「まーそんなもんだよ。あちこちロケ行くけどさ、自分の町のことって意外と知らなかったりするんだよね」
 
山口「すみません。役に立たなくて」
 
リーダー「君、彼女いる?」
 
山口「え、いませんけど」
 
リーダー「じゃあさ、もし彼女ができたらどこ行く?」
 
山口「堺で、ですよねえ」
 
リーダー「もう一か所ぐらい行きたいんだけど、どっか絵になる場所ないかな?」
 
山口「うーん……浜寺公園とか、どうですか。松林もきれいだし。あと、夜になったら臨海工業地帯の工場の明かりがきれいですよ」
 
リーダー「工場の明かりねえ。それいいんじゃない?」
 
うなずくカメラマン。
 
山口「逆方向の終点です」
 
リーダー「ありがと。そこ行ってみる」
 
カメラを止めるカメラマン。
 
山口「あの、もしかしてこれってテレビに出れるってことですか?」
 
リーダー「んー、流れるかどうかは微妙だけどねー」
 
山口「そうなんですか」
 
リーダー「三十分の番組でもさ、何時間も回すから」
 
山口「そうですよね」
 
リーダー「あ、でも、編集のとき、できるだけ拾うようにしてみるよ」
 
リーダー、番組名の入った名刺を差し出し、
 
リーダー「再来週の金曜の深夜。見てみて」
 
山口「はいっ」
 
電車が妙国寺前で停まる。
 
リーダー「じゃ」
 
と扉へ向かうリーダーとカメラマン。
 
山口「やった!」
 
とガッツポーズする。
 
電車M「お、ちょっと明るい顔になったな。そんでこっちは相変わらずか」     
 
浮かない顔で電車を降りる与四郎。
 
降り際、運転席近くのゴミ箱に青い箱を捨てる。
 
電車M「ええっ!」
 
○ 実景・沿線の風景(夜)
 
○ 走る阪堺電車・車内
 
揺られている仕事帰りの白鷺芽依(22)。
 
芽依「向いてないのかなあ……」
 
他に乗客はいない。
うとうととなり、目を閉じる芽依。
揺れで目が覚める芽依。
ここはどこかと見回す。
シャ、シャという音が聞こえ、目をやると、車内中央に正座し、利休がお茶を点てている。
 
芽依「(目をこすり)えっ」
 
電車M「あれま、まさかのあのお方!」

 
T 「第5話 利休の相談室」
 
芽依に気付いていない利休。
利休をジロジロと見る芽依。
 
芽依「今日って、まつりだっけ?」
 
利休、芽依の視線に気付いて、
 
利休「あんた何見てんのよ?」
 
芽依「す、すいません」
 
利休「ジロジロ見るなんて失礼よ」
 
芽依「……」
 
黙り込む二人。
利休のお茶を点てる音だけが車内に聞こえる。
 
利休「女が車内で寝るなんて不用心よ。何か疲れることでもあんの?」
 
芽依「い、いえ。別に」
 
利休「話したら楽になることもあるわよ」
 
芽依「……」
 
利休「あたしは利休。あんたは?」
 
芽依「……利休って……あの千利休ですか?」
 
利休「そうよ。文句ある?」
 
芽依「そ、そうなんですか」
 
利休「それより、さっさっと名前、言いなさいよ」
 
芽依「うちは白鷺芽依です」
 
利休「いい名前ね」
 
芽依「ありがとうございます」
 
利休「どう? 話す気になった?」
 
芽依「あの、実は、うち……会社やめようかと思って……。ほんまは、図案書く部署に行きたかったんですけど、販売に回されて……」
 
お茶を点てながら、聞いている利休。
 
芽依「人見知りで、なかなか成績伸びなくて、いつも上司に怒られてるんです」

利休「そう、そんなことがあったの」
 
芽依「不思議ですね……。うち、昔からすごい人見知りやのに、利休さんとやったら、普通にしゃべれる」
 
利休「私もあんたとは初めて会った気がしないわ」
 
芽依「私どうしたらいいんですか? こんな不景気じゃ、やり直すチャンスないかもしれなし、でも、図案書く夢は諦められないし」
 
お茶を点てていた手を止める利休。
 
利休「あんた甘いわよ」
 
芽依「え……」
 
利休「それ、本当にしたい事なの?」
 
芽依「したいに決まっているじゃないですか!!」
 
利休「なら努力しなさいよ」
 
芽依「してます!」
 
利休「できること全部やった? 会社の上司にかけあったりした?」
 
芽依「それは……」
 
利休「ほらね。そういうこともしてないのに、ぐちぐち言うんじゃないわよ」
 
芽依「……ごめんなさい」
 
利休「どうぞ」
 
と、芽依にお茶を出す。
芽依、ひと口飲んで、
 
芽依「苦っ!?」
 
利休、芽依をにらむ。
芽依、もうひと口飲む。
 
利休「いろいろ言ったけどね、あんたのしたいようにしたらいいのよ。あんたの人生なんだから」
 
茶道具を風呂敷に包み、背負う利休。芽依のそばの窓枠に手足をかけると、
 
利休「がんばりなさいよ」
 
と窓から飛び降りる。
 
芽依「! 利休さぁー!!」
 
と窓の外を見る。
闇に消えている利休。
 
芽依「……」
 
○ 夜の町を走る阪堺電車
 
○  走る阪堺電車・車内
 
眠っている芽依。
 
車掌「次は~、浜寺~、浜寺公園」
 
その声に目を覚ます芽依。
 
芽依「利休さん!?」
 
と見回すと、車内には芽依しかいない。
 
芽依「って夢? そっか……寒っ!?」
 
と吹き込んで来た風に身を震わせ、
 
芽依「風?」
 
と振り返ると、利休が飛び降りた窓が開いている。
 
芽依「(見て)……」
 
窓の外に向かって、
 
芽依「利休さん、私がんばるね!!」
 
きりっとした顔になる芽依。
その髪を窓からの風が揺らす。
 
○ 浜寺公園駅・停車している阪堺電車・車内
 
意気揚々と電車を降りる芽依。
電車は「回送」の表示になる。
駆け込んでくる与四郎。
 
電車M「ほらほら、戻ってきたで」

 
T 「第6話 鉄は熱いうちに打て」
 
運転席近くのゴミ箱の中を見る与四郎。
 
与四郎「あれ、ない……」
 
ゴミ箱は空っぽ。
運転手が運転席から出てきて、
 
運転手「お客さん、これ、回送やで」
 
ゴミ箱の近くを探す与四郎。
 
与四郎「おかしいな、この電車で間違いないやんな」
 
運転手「どないしたん?」
 
与四郎「いや、ここにちょっと……」
 
とゴミ箱を指す。
 
運転手「ゴミはもう捨てたけど」
 
与四郎「そんな……」
 
運転手「これはあるけどな」
 
とポケットから取り出す。
白いリボンをかけた青い小さな箱。
 
与四郎「あ!」
 
運転手「これはゴミちゃうやろ」
 
と与四郎の手に箱を握らせる。
 
与四郎「なんで、これが僕のんやって……」
 
運転手「そっから見えとったんや」
 
と運転席の鏡を指差す。
 
与四郎「え……」
 
  ×     ×     ×
 
インサート・運転手の回想。
 
鏡に映っている座席。
箱を晶子に渡せない与四郎。
晶子を見送る与四郎。
箱をゴミ箱に捨てる与四郎。
 
  ×     ×     ×
 
運転手「こんな大事なもん、捨てるアホがおるか」
 
与四郎「おおきに、取っといてくれて、ありがとうございます」
 
運転手「あんた、もしかして曽呂利さんとこで働いている職人の子ちゃうんか?」
 
与四郎「はい」
 
運転手「包丁職人やったらわかるやろ?鉄は熱いうちに打て! もたもたしてたらあかん。はよ行け!」
 
与四郎「はっはい」
 
急いで電車から急いる与四郎。
 
電車M「そうや。電車がつなぐんは、駅と駅だけやない、人と人、男と女もつなぎまっせ」
 
○ 車庫
 
電車が入っていく。
 
電車M「あー、今日もおもろかった。電車は走る人生劇場やな。爆破男にもたまげたけど、利休さんが乗って来はるとは、驚いたわ。長生きは、してみるもんや」

  • 作 ドラマティック堺さがしハンターの高校生のみなさん

秋成奈央花、飯野真鈴、大嶌智貴、加藤一真、門林李奈、喜多陽向、脚ノ友里、楠本あかり、肥下友梨恵、竹入綾郁、竹入慧音、出口慧子、中谷真志、西浦航太郎、西野泰生、野田梨花子、春木淳也、宮崎優花、幸野々花(五十音順・敬称略)

  • まとめ 今井雅子さん

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