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2007年度 活動記録

マレーシア・サラワク州の概要

マレーシアは赤道に近い東南アジアの中心に位置し、マレー半島南部とボルネオ島の北西部から成り立っている。13の州と3つの連邦特別自治区に分かれ、国旗には、国教であるイスラム教のシンボルマーク、月と星。そして13本の線は13の州の意味が込められている。国土面積は約33万平方キロメートル(日本の約90%弱の広さ)で、そのうちの約60%が熱帯雨林で覆われている。マレー系・中国系・インド系、そして多数の先住民族で構成される多民族国家である。私たちが訪れるサラワク州はマレーシア最大の州で、国土面積の約38%(日本の約3分の1)に相当し、人口は約240万人である。

気候は年間を通して26〜27度程度と高温多湿の国で、モンスーンの影響で雨季と乾期があり、サラワク州では大体10月〜3月までが雨季となる。

マレーシアは、イギリスの植民地時代は天然ゴムや胡椒、紅茶の栽培が主要な産業であったが、現在はアブラヤシプランテーション、すずの採掘、天然ガスの掘削などが盛んに行われている。一方で、農作物や地下資源、鉱物の輸出に依存した体質からの脱却をめざし、工業化やIT産業にも力を入れている。サラワク州では、石油・天然ガスや木材、パーム油などの1次産品を主に輸出しており、日本は大きな輸出相手国の一つである。

住民組織による消防・防災体制づくりのモデルプラン作成事業

1.先住民族イバンとロングハウス

私たちはマレーシアに訪問中、ボルネオ島の先住民族イバンの村ルマ・セリにホームステイした。イバンの人々は「ロングハウス」と呼ばれる木造高床式の長屋形式の住居で暮らしている。長さ100〜200mほどの長屋に20〜60世帯が共同生活しているのだ。

ここでは、住民の関心ごとの一つに「火災」があげられる。ロングハウスは木造であるため、構造上、一度出火するとすぐに延焼し全焼してしまうことが多い。また、銀行預金や火災保険などの習慣がないため、建物が焼けてしまうと、全財産を失うことになる。また、イバンの人々の村は熱帯雨林の中に点在しており、町からの道路が通じていない村も多い。そのため火災の際に消防署に連絡しても、消防隊の到着が間に合わないのが現状である。

ロングハウス
全焼し、復興中の村
イバンの子どもたち

2.「住民組織による消防・防災体制づくりのモデルプラン作成事業」について

先住民族の人々が、消防・防災のノウハウを知らず、地理的に消防署による支援を受けることもできずに、火災によって住む家を失うことは人権的に問題であると言える。

このような現状に対して、私たちが何をできるのかを考え、インターユース堺は、2006年から2008年までの3年間のプロジェクトとして「住民組織による消防・防災体制づくりのモデルプラン作成事業」(以下消防プロジェクト)を策定した。

この事業については、右の図のように、堺市・堺市教育委員会の後援をいただき、堺市高石市消防組合と特定非営利活動法人アジアボランティアセンター(AVC)の協力のもと、サラワク州のNGOであるSociety of Christian Service(SCS)と協働で実施するプロジェクトチームを組織した。消防プロジェクトの年次ごとの実現可能な目標として次のように定め活動している。

  • 2006年度・・「団員の力でできる範囲の社会貢献」
  • 2007年度・・「火を出さない!初期の段階で消火できる体制づくり」
  • 2008年度・・「サラワク州消防救助局とイバンとの連携強化、指導者の育成・自立」

3.2007年度活動内容

今年度は、ルマ・セリに5日間ホームステイし、次のような活動を現地の人々と行った。

指導者育成のプログラム

ルマ・セリに行く前に、サラワク州の州都クチンにあるサラワク州消防救助局をイバンの人々と一緒に訪問した。私たちは堺市のことやIYSの活動について説明し、マレーシアやサラワク州の消防組織や課題について教わり、ロングハウスの火災対策について学ぶことができた。また、消防救助局職員のみなさんとイバンの人々、私たちが交流し意見交換を行うことで、普段イバンの人々が伝えることができない思いを消防救助局の人々に伝えることができた。さらに翌日、ルマ・セリに近い町シブにあるスンガイメラ消防署にもイバンの人々と一緒に訪問した。ここでは火災対策、問題点について詳しく教えてもうことができた。

消防署ではロングハウスの火災に対する教育プログラムを作成しており、そのプログラムが成功した実例もあることを教わった。また、同じ川の流域にある村々が消防団を組織することで、消防署からの援助を受けることができることもわかった。しかし、今までは消防署とロングハウスとの関係が密ではなかったため、消防署は計画通りの支援ができておらず、イバンの人々も、このような教育プログラムがあることを、このとき始めて知ったのである。

サラワク州消防救助局
スンガイメラ消防署

住民の防火意識を向上させるプログラム

【1】2006年度海外派遣報告集を全世帯に配布

報告集、消防プロジェクトを英訳したものを渡した。ほとんどが日本語であり、イバンの人々は読めないにも関わらす、消防プロジェクトのカラーページの写真等を熱心に見ていた。

【2】過去の経験を質問形式で聞き「気付き」を導く

ルマ・セリの人々は大きな火事にあったことはないが、この25年間で7回のぼやを経験している。私たちが質問形式でぼやの原因などを聞き、村の人々が事実を話し、火事の原因や対策方法に自ら気付いてもらうことで、住民全体の防火意識の向上を図った。

【1】現地消防士のプログラム実施

スンガイメラ消防署の消防士が、私たちと一緒にルマ・セリに同行し、村で教育プログラムを行った。ロングハウスの火事の原因、村としてのルールの必要性、消火器の設置場所、消火器の中身の入れ替えが消防署でできることなど、約1時間のプログラムを実施した。さらに、ホームステイの最終日に2人の消防士が、わざわざ休みをとって再びルマ・セリに来てくれた。イバンの人々は消防署に対して近寄りがたいというイメージを持っていたらしいのだが、今回の2度にわたる訪問と交流で、その壁が取り払われ、イバンの人々と現地消防署の繋がりができたことは、たいへん有意義であった。

【2】火災経験者・防火防災活動実践者の講話

実際に火事を経験したルマ・ミットの人々に、ルマ・セリに来てもらい、火事の恐ろしさや、その後の住民組織での防火対策について話してもらった。村の人々は身近で具体的な話に真剣に聞き入っていた。

【5】火災の怖さに関する啓発活動

日本の火災現場、トラッキング、水蒸気爆発、食用油やタバコによる火災の映像を見て、火災の怖さや日頃使っている物が火災の原因となる危険性を伝えた。

【6】消火器の使用方法および管理方法の紹介

堺市高石市消防組合の消防士長が日本の法律を参考にし、現地に合った使用法および管理法を紹介した。また誰でもできるメンテナンスの方法を実演し、村の人々にも実際に消火器を持って確認する練習をしてもらった。

【7】住民組織による防火のためのルール作り

ルマ・セリの役員が中心となり、タバコやガスコンロに関する取り決めと、消防・防火体制の組織に関する「ルール」を作った。次はその一部である。

  • 1.ロングハウスの各世帯を見回り、火の消し忘れなどがないかを点検する。見回りは1日3回実施する。
  • 2.消火器を点検する。
  • 3.定期的な消防に関する企画を実施する。
  • 4.消防当局との親密な連携を心がける。必要なときに協力を要請する。
意識向上プログラム
消火器の管理方法紹介

初期消火訓練のプログラム

【1】消火器の寄贈

ルマ・セリに31本の粉末式消火器、3本のガス式消火器、他の村にも2本のガス式消火器を現地で購入し寄贈した。そのうちルマ・セリでの消火器訓練では、昨年度に寄贈した5本とあわせて8本の粉末式消火器を使用した。粉末の詰め替えは現地の消防署で5RM(約180円)で可能であることを伝えた。

【2】消火器による初期消火訓練

消火器による初期消火訓練を行った。で3〜5世帯を1班とし、合計7回の訓練を実施した。グループに分け少人数で行うことにより、より多くの村の人々が消火器に触れ訓練を行うことができた。また、訓練を行うにあたっては、老若男女誰でもが消火器を取り扱い、初期消火が可能になることを目標に取り組んだ。現地の粉末式消火器は、数回に分けて使用が可能である為、1本で多くの人が訓練することができた。

消火器を使った初期消火訓練
【3】パネル作成

消火器の使用方法をイバン語と絵で描いた物を準備した。消火器の初期消火訓練を行っていない世帯の子どもたちに、色鉛筆で塗り絵をしてもらった。子どもから高齢者まで参加できるプログラムを実施したことにより、今後、子どもが消火器にいたずらすることもないと思われる。

【4】消火器とパネルの取り付け

いつでも誰でも取り外し使用可能なように、廊下に面した各世帯入り口付近の床から約1mのところに設置した。消火器1本につき1枚のパネルを村の人々と取り付けた。

使用方法のパネル
消火器の取り付け
消火器とパネルの設置

4.堺市高石市消防組合の消防士長のコメント

村の方全員が消火器を取り扱うことができるということは素晴らしいことです。今年村の住民の方が消防に関するルールを作りました。来年度はルールを点検し見直しをすればより良いものになると思います。昨年と今年で実施した消防に関するプログラムを、ルマ・セリの人々が他の村に伝え広めていくことで、この地域の防火意識が向上し、火災からロングハウスを守ることができると思います。そして、現地消防署の支援を受けて、イバンの人々が安全に暮らせることを希望しています。

5.現地の事後活動

私たちが行った初期消火訓練に参加できなかった人々が、9月29日にSCSを中心に初期消火訓練を行った。SCSのメンバーが消防プロジェクトの指導者となり定期的な活動をルマ・セリ等で行い、AVCのスタッフが年に数回ルマ・セリ周辺の地域を訪問し、その進捗状況を確認し今後のプロジェクトの進むべき方向を調査している。このように私たち消防プロジェクトチームの活動は、IYSの訪問時だけでなく日頃から現地で取り組まれている。「自立支援活動」と「人材の育成」を目的に活動している私たちにとってたいへんうれしいことである。

6.2008年度活動計画

現地での消防プロジェクト体制

今年度、現地での次のような消防プロジェクト体制ができた。

この体制を有効に機能させる為に、最終年となる来年度の活動を次の通り計画している。

  • 【1】 ルマ・セリの消防に関するルールの検討・指導
  • 【2】 現地の人々が指導者となり、他の村で消防に関するモデルプランを実施
  • 【3】 モデルプランを実施する村への消火器の寄贈
  • 【4】 ルマ・セリ地域の村が合同で、現地消防の援助を受けることができる組織を作る支援
  • 【5】 団員による新しい取り組みの検討

7.最後に

インターユース堺のめざす国際貢献活動とは、私たちが調査結果などから考えられる対策を一方的に提案し、実践してもらうのではない。大切にするのは現地の人々の「気付き」である。どのように消防・防災体制づくりをするのか、何が課題でそれを解決するにはどうしたらいいのか。現地の人々に考えてもらい、気付いてもらう。 私たちはその「気付き」の支援をする。そして、私たちの持っている知識・方法・資金で、支援内容を提案し、現地の人々の承諾があれば、現地の人々と一緒に実施するのである。

私たちは現地の方からそれぞれ、「遠い日本から若い君たちが来てくれて、交流し一緒に活動したことで、自分たちでやらなければいけないという気持ちが高くなりここまでできた。」という言葉を聞いた。私たちの国際貢献活動のビジョンを理解してもらえたようで、たいへんうれしかった。来年度の団員にこのビジョンを伝えること、そして各活動を通して、今以上に人権意識と国際感覚を身に付けることができるように活動を続けていきたいと思う。

問い合わせ
インターユース堺事務局
電話 (072) 245-2532
FAX (072) 245-2535